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もうじやのたわむれ 27 [もうじやのたわむれ 1 創作]

「いやいや、こちらこそ今更こんなもじりなんかつい云って仕舞って、貴方に余計な気を遣わせました。もう既に云った後ですが、大いに恥入っております」
 記録官が、大袈裟にさよならをするように両掌を横に忙しなくふって、頭を何度か下げるのでありました。
「いやあ、申しわけありません、本当に。貴方を傷つける意図など全くなかったのです」
 拙生のこの言葉に記録官は一層忙しなく両手をふるのでありました。
「どんでもない、とんでもない」
「前の、批判めいた私の言葉を、ここで取り消させて頂きます。考えてみたら、あれはそこはかとなく味わいのあるもじりでありました」
「いやいや、何を仰いますやら」
 疲れたのか、記録官の手の横ふりのスピードがやや鈍るのでありました。
「堪忍して頂けますでしょうか?」
「堪忍するも何も、・・・」
 記録官の手のスピードがやや回復するのでありました。
「では、許していただけるということで。どうも有難うございます。いや、再認識させて頂きました、あのもじりの結構なところを」
 拙生は記録官に頭を下げるのでありました。「もじりよ今夜も有難う」
 今まで黙って、拙生と記録官の遣り取りを聞いていた審問官が、満を持したように、拙生に向かってツッコミの仕草をして見せるのでありました。
「今までの話しを聞いていると、つまり準娑婆省と極楽省の中間に地獄省が位置するような国際関係、いや省際関係があると云う様な理解で宜しいでしょうかね?」
 拙生は云いながらまた冷めたコーヒーを飲むのでありました。
「ま、一部入り組んだ省界や飛び地はあるにしろ、そんなようなところで良いと思います」
 審問官が一つ頷くのでありました。
「極楽省と準娑婆省の間では、直接省益がぶつかることはないのですか?」
「まあ、取り立ててないと思いますよ。地勢的に地獄省が、その両省を隔てる緩衝地帯的な位置にありますからね」
「極楽省と準娑婆省は直接の交通もないのですね?」
「そうですね。地獄省を経由しなければ直接その二つの省を繋ぐルートはありません」
「空を飛んで地獄省を越えると云う手も?」
「地獄省領内の制空権も、当然地獄省にあります。地獄省の許可を得ずして極楽省の航空機等が我が空域に侵入すれば、それは明瞭な領空侵犯と云う事態ですので、こちらの航空防衛隊が速やかにスクランブルをかけます」
「まあ、極楽省も準娑婆省にしても、その二つの省に直接の交通が必要になるような、魅力的な事由も産物も特になにもないですから、交流は無意味と思っているでしょう」
 これは記録官が横から云う言葉でありました。
「貿易とか文化交流とか、そう云うのはないのですね?」
(続)
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