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もうじやのたわむれ 25 [もうじやのたわむれ 1 創作]

「それに比べてこちらの地獄省は、全体に険しい山がちの省土で、大規模農業にはあまり向かないのです。一面針のような硬い草に覆われた、鋭針山地と云う地名の、峻嶮な岩山の山岳地帯であるとか、大焦熱台と名前のついた、地下に高熱の溶岩の流れる灼熱の痩せに痩せた、鉄板のような土地があったりと、他にも第一次産業には到底向かない、未開の地域が至る処にあります。河川や湖沼にしても、向こうには蓮池、大蓮池、荷風湖等と呼ばれる水産資源豊かな広大な湖が幾つもありますが、こちらは鮮血池、大鮮血池、赤血球湖なんという名称のついた、広大なくせに飲用には全く不向きで、漁業資源皆無の、硬質の赤い色をした大小の湖沼群が広がる湿地帯があったりでね。気候も温暖とは云えないし」
 審問官がやや苦々しげに云うのでありました。「まあ、工業力は極楽省を見習って、ここ近年、多くの亡者の方々のご協力を得て、次第に追いつくらいにはなりましたか。しかし無視できない大きな省家的収入であるところの、娑婆で行われる供養等のお供物の流入に関しては、これは将来的にも全く増加が見こめません」
 審問官はそう云って、暫く止めていた、指先でボールペンをくるんと回す所作をまたぞろし始めるのでありました。
「省土はそうでも、省霊は、地獄省の霊の方が何に依らず積極的で行動的で、バイタリティーに満ち溢れていて、勇猛果敢、猪突猛進の気質があるのです。まあ、協調性とか親和性と云うものに欠けるきらいが、多少はありますが。・・・」
 記録官が云い足すのでありました。
「一例に、軍事面を見ると、先の大戦の敗戦省であるために無制限な軍備拡張は出来ないのですが、しかし戦後すぐの防衛隊創設時に、極楽省から払い下げられた兵器に独自の改良を重ねて、最近は省産の優秀な武器も多くありますし、兵員の能力等は、それこそ地獄の訓練によって育成された、青木君が云う、勇猛果敢な気質に裏打ちされた優秀な兵員がこちらには多いのですが」
 審問官は自分の云った事に自分で納得するように、頷いてはボールペンをくるんと回し、頷いてはまたボールペンをくるんと回しを、何度か繰り返すのでありました。
「地獄の訓練、ですか。うーん、成程。それは確かにこちらの方が本場に違いない」
 拙生は感心して見せるのでありました。
「仮に、今また戦争をおっ始めたら、こちらも互角以上には戦えるはずですがね。まあ、しかし戦争の勝ち負けだけが省力を証明するものでもないのは、重々承知していますが」
 これは記録官が云った言葉でありました。
「それに短慮に戦争をおっ始めたりすると、娑婆からいらした亡者様を再度失望させ、お叱りを頂戴することになるでしょうから、我々としても滅多なことでは、武力行使には踏み切りません。その点、どうかご安心ください。あくまで省力の比較と云うところで、軍事面を紹介させて頂いただけですから。しかし、向こうが仕がけてくれば別ですよ」
 審問官が拙生に笑いを向けるのでありました。
「いや、宜しく両省の友好的な姿勢と努力を願うだけです」
 拙生は深くお辞儀をして懇願の意を示すのでありました。
(続)
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