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もうじやのたわむれ 22 [もうじやのたわむれ 1 創作]

 拙生はそう聞くのでありました。
「夫々の関係と云う事ですが、ま、省益と云う点でどの省も腹蔵もあり、思惑もあり、他省に対する不信感もあり、一方で頼っているところもありで、これまた複雑な様相です。今のところ内政不干渉の建前から、なんとなく事なきを得ておりますが、長く解決を見ない懸案もまた、色々抱えております」
 審問官の顔はまた、深刻そうな表情に変わるのでありました。
「なんか領土紛争なんかがあるようには思えませんが、その懸案と云うのはいったい?」
「お察しの通り、領土紛争はありません。その三つの省の間には明瞭で妥当な省境があります。主な省益の対立とは領土に関してと云うよりは、新規流入の霊口問題なのです」
「ええと、つまり娑婆で云えば、人口問題、ですね」
「正解!」
 審問官はまたピースサインをするのでありました。但し深刻顔の儘で。
「なんとなく察しはつくような気がします。極楽省に行く亡者と地獄省に行く亡者、それに準娑婆省に止まる亡者のふりあいの問題ですよね?」
「そう云うことです」
「亡者様はすべからく、一旦は地獄省の閻魔庁で、その後に極楽省に行くか地獄省の各地獄等に行くか、自分の住むべき処を決めなければならない事となっているのですが、準娑婆省の場合単なる通過地であって、自分の処の霊口増加は全く見こめないわけです。だから、先程話した鬼と化した亡者様とか、閻魔庁にどうしても行きたくないような、娑婆で大悪人をやっていた方とかに対して、三途の川を渡るように積極的に教導しようとしないのです。裏では準娑婆省にこの儘残らないかと、無責任なオルグをかけたりしているようなのです。確認は未だ出来ていないのですが」
「でも、亡者は準娑婆省のほんの短い区間を、地獄省の防衛隊に守られて、港まで移動するだけなのでしょう?」
「そうなのですが、それでも鬼と化したい亡者様とか娑婆で大悪人だった亡者様は、矢張り渡河船に乗るのを躊躇なさるわけです。閻魔庁のお裁きを受ける勇気がなくて。しかしこれは後でも申しますが、本当は、閻魔庁は決して裁きをする処ではないのですがね。でも、矢張りどうしても拭い難い誤解があるのです」
 審問官がそう云って口を尖らすのでありました。
「おや、閻魔庁は亡者の娑婆での言行その他を審理する処ではないのですか?」
「違います。それは娑婆の方々がそう云う風に喧伝して、娑婆の秩序を乱させないようにするための、あくまで娑婆の利益を慮った、作られた閻魔のお裁きのイメージです」
「へえ、そうなんですか。これまた意表を突かれましたね」
 拙生は顎を突き出すのでありました。
「ま、その辺の事は後にお話しさせて頂きますが、ともあれ、そう云った準娑婆省の身勝手な企みは、こちらの世界の正しい在り方を乱すことになりますから、我々は常々苦々しく思っているわけなのです。全く不謹慎な手あいですよ、準娑婆省の連中は」
(続)
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