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もうじやのたわむれ 21 [もうじやのたわむれ 1 創作]

「こちらとしては、そう云った準娑婆省で鬼と化した、了見違いの亡者の方々を説得教導して、こちらに早く渡って来て貰いたいのですが、地獄省の統治外地域で起こっている事なので不如意の儘、今日まできているわけですわ」
 これは審問官の科白であります。「互いに内政不干渉が建前ですから、こちらの担当者が準娑婆省内で説得活動をするためには、準娑婆省との間に条約とか配慮も要りますし、ま、色々難しい問題が発生するわけです。時には鬼と化した亡者様の霊柄確保をするために、逮捕権のようなものも発動しなければならない場合も想定されますからね」
「霊柄確保?」
「向こうの言葉では、身柄確保、です」
「ああそうか、身柄確保ね」
 拙生は下唇で上唇を隠すのでありました。「準娑婆省との間に、例えば犯罪霊引き渡し条約、みたいなものはないのですか?」
「ま、こちらに来るべき亡者様がいらっしゃらないのですから、云ってみれば法を犯しているのではありますが、しかしそうやって亡者様になった後まで余計な罪を上乗せしたりすると、益々こっちには来たくなくなるでしょうから、それもどうかなと云う意見もありましてね。ま、難しい問題です。それに準娑婆省との間には未だ、亡者様引き渡しの条約は締結されていません。その前に、向こうの警察組織自体がこちらから云わせると、全く信用出来ないところがあるのです。準娑婆省では現場の警察署員丸ごと賄賂塗れ、なんと云うこともあるようですからね。ですから、こちらの警察組織が向こうに行って、説得とか霊柄確保に実効のある行動を執らなければ成果は上がらないでしょうし、そうなると明らかに主権侵害でしょうから、向こうとしても色々面白くないはずですからね。・・・」
「なかなか、まわりくどい難問があるのですね」
 拙生は腕組みをして見せるのでありました。
「若しこちらが拙速に準娑婆省内での警察権行使に踏み切ると、万が一事態が拗れでもすれば、準娑婆省との間に省同士の紛争が勃発するかも知れません。そうなると屹度極楽省も黙ってはいないでしょうから、その変にも無神経ではいられません。下手をすれば省際情勢は一挙に悪化して、第三次省界大戦の勃発なんと云う事になったらえらいことです」
 そう云う審問官の表情は結構陰鬱そうであり、深刻そうでありました。
「ああ、それは確かに避けなければなりませんよね。ところで余計な確認かも知れませんが、その、省際情勢、と云うのは、娑婆の言葉に置き換えると、国際情勢、ですね」
「正解!」
 審問官の顔が急に明るい笑顔に変わって、手でピースサインを作って見せるのでありました。「貴方も段々、こちらの言葉に慣れてきたようですな」
「お褒め頂いて恐縮です」
 拙生はお辞儀をするのでありました。審問官は今度はその拙生のお辞儀に釣られることなく、ピースサインの儘ニコニコと笑って拙生を見ているだけなのでありました。
「極楽省と地獄省、それに準娑婆省間の、夫々の関係と云うのはどんな具合なのでしょう?」
(続)
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