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もうじやのたわむれ 20 [もうじやのたわむれ 1 創作]

 拙生は審問官と同じように頷きながら、なんとなくほっとして顔を綻ばすのでありました。話しを自ら横道に逸らして自分の発した当初の質問を失念して仕舞い、審問官に改めてここでなぞって貰って喜んでいる等とは、考えてみれば間抜けな話しではあります。
「先にも話したように、準娑婆省には気象統括庁の雷雨担当官の鬼のように、準娑婆省の公務を担っている鬼もいれば、霊間霊で悪事を働くような鬼もいましてね」
「霊間霊?」
「向こうの世界で云うなら、民間人、ですな」
「ああ、民間人、ですか」
 拙生は先程から、その辺の言葉遣いのまわりくどさに少々げんなりしているのでありましたが、しかしこちらにやって来た以上、娑婆の言葉を早く忘れて、こちらの言葉に順応しなければいけないのでありましょう。「民、と云う言葉と、人、と云う言葉は同じ、霊、と云う言葉にして構わないのですか?」
「まあ、構いません。向こうで人一般を差す言葉は大体、霊、と云う言葉で置き換えて貰って大丈夫です。ま、先に話しが出た、民主化、とか云う様な、何でもそうですが、幾つかの慣用的例外とか曖昧な部分はありますけど」
「判りました。では続きをどうぞ」
 拙生はそう云って一礼し、審問官が前にしたように、掌を上に向けてそれを審問官の方に差し出すのでありました。どうでも良い事なのですが、拙生のそれはまるで渡世人の、お控えなすってのポーズのようだと、そうしながら頭の隅でちらと思うのでありました。
「準娑婆省内の鬼は実に多種多様で、その全部を準娑婆省の公安組織も把握していないのではないでしょうか。尤もそれは準娑婆省当局の怠慢と能力不足のせいで、もし仮に我が地獄省であれば、その実態を細大漏らさず調査掌握出来るでしょうがね」
 審問官はまたボールペンを指の上で一度回すのでありました。「いやまあ、それは兎も角、準娑婆省とは娑婆の怪奇現象を統括している省ですから、云われたような、祟りをなす鬼もいれば、節分で豆をぶつけられる鬼であるとか、桃太郎や一寸法師に退治される鬼とか、浅間山の溶岩流になったヤツとか、瓦になったヤツとか、そうかと云うと、蛇とどっちが先に出るか競っている鬼もいれば、来年の事を云われるとつい笑って仕舞う迂闊な鬼もいるし、いなくなると直ぐ洗濯されて仕舞うのやら、呑気に子供と追いかけっこして遊んでいるのやら、ま、このように色んな鬼がいて、つまり、なんでもありと云うことです」
「なんでもあり、ですか。・・・」
「そうです」
「つまり祟る鬼も、ちゃんと実在すると云うことですね?」
「はい、実在します」
「但し、祟る鬼に関しては、準娑婆省に先祖代々住んでいる鬼とは違って、元々は人間だったわけですから、本来はこちらに来るべきなのですけれど」
 これは記録官が横から云う言葉でありました。「しかし準娑婆省内に止まっていて、娑婆の人を脅かすのが面白いものだから、なかなか渡河船に乗ってくれないのです」
(続)
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