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もうじやのたわむれ 17 [もうじやのたわむれ 1 創作]

 この記述の中の、審理補佐局と云う文字に下線が引いてあるのでありました。
「先々の話しもあるので、一応これをお渡ししておきます。まあ、こう云った羅列型の記述よりは、図表でお示しした方が判り易かったと思いますが、色々、都合もありまして。・・・」
 審問官がそう云って頭に手を遣るのは恐縮を表明しているのでありましょうか。
「このアンダーラインの審理補佐局と云うのが、つまりここですね?」
 拙生が問うのでありました。
「はい、そう云うことです。まあ、その紙には主な処しか書いておりませんがね」
「川向こうの三つの港湾施設は、港湾管理事業所が運営しているのですね?」
「そう云う事です」
「川向うは準娑婆省が統治しているのだけれど、しかし三つの港湾施設のように、特別に地獄省が独自に管理する施設もあるわけですか?」
「ええまあ。準娑婆省の管理でも構わないのでしょうけど、そうなると省の縦割りの弊害で色々煩雑な手続きが発生して、亡者様には不利益となりますしね。それに実はこちらとしては、準娑婆省の治安であるとか警備体制を全面的に信頼していない部分があって、それで準娑婆省から一定面積を租借して、治外法権で港湾のみこちらで運営しているのです」
「準娑婆省と云う処には、なにか社会安全上の問題があるのでしょうか?」
「折角のご質問ですが、そこいら辺は私の口からは、多くの事を申し上げられません」
 審問官が、意外ときっぱりとした調子をその恐縮の笑みに載せて云うのでありました。
「他国、いや他省の事は、あまり喋りたくないと云うことですかね?」
「まあ、そうです。無神経な事を云って、後で内政干渉なんと云われても拙いですから」
「そうなると、益々聞きたくなると云うのが人情じゃありませんか」
 拙生は控えめな態度ながら食い下がるのでありました。
「まあ、そうでしょうが。・・・」
 審問官が拙生から目を逸らすのでありました。
「云ってみれば、準娑婆省は開発途上国なのですよ」
 これは記録官の方が云うのでありました。「インフラも洗練された色々な社会制度も未発達だし、それに、野蛮な風習とかが残っていて、霊度が成熟していないのです」
「霊度?」
「向こうの世界の言葉で云えば、民度と云うことになります。序でに申し添えれば、先程貴方が口にされた人情と云う言葉も、ここでは霊情と云う言葉に置き換えた方が適切かと思われます。ま、このようなアドバイスは、お節介であることは重々承知しておりますが」
「ああ、これは失礼いたしました」
 拙生はほんの少したじろぎながら、記録官に頭を下げるのでありました。
「いえいえ、とんでもない。もし私の言葉をご不快に思われたなら、ご容赦ください」
「どうも私も、未だ娑婆っ気が抜け切れていないもので」
「いやいや、無理もありませんよ」
 記録官は拙生の恐縮に恐縮すると云った態で深めのお辞儀をするのでありました。
(続)
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