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もうじやのたわむれ 13 [もうじやのたわむれ 1 創作]

 記録官が補足するのでありました。
「ま、酒を飲むと祖先が赤鬼の我々、いや正確に云うと祖先が赤鬼局に勤務していた鬼の子孫である我々は顔が赤くなる性質で、青くなるのが青鬼局に勤めていた連中の子孫とかね。ま、これは仕様もない冗談ですけどね」
 審問官はそう云って、角を引っこめている頭を掻きながら笑うのでありました。拙生は一応お愛想に一緒に笑って見せるのでありました。
「ご先祖が赤鬼局、或いは青鬼局に勤めていたご子孫の方は、代々、赤鬼局と青鬼局にお勤めになるのですか、お二方のように?」
「いやまあ、世襲と云うことでは全くないのですが、しかしなんとなくそう云う風な実状になっていましたかな、歴史的には」
 審問官が口の端に未だ笑いの名残を止めた儘云うのでありました。
「なっていました、と云うのは、今は違うと云う事でしょうか?」
「違います。と云うのか、今は赤鬼局も青鬼局もないのです。いや、現状をもっと紹介するなら、先程話した宋帝王審理所や五官王審理所、変生王審理所も泰山王審理所と云う各審理所も今はもうないのです」
「ああそうなんですか?」
「ずっと以前に省内の庁と部局の大幅な統廃合がありましてね」
 審問官がそう云いながら、手にしているボールペンのキャップの方で、テーブルを二三度軽く拍子を取るように打つのでありました。「まあ、地獄省内の各庁や各局で重複する仕事や、権限の錯綜とか、行政上の矛盾とか、それに審理結果の不統一性等で亡者様には大変ご迷惑をおかけしているのではないかと、専門家の先生方のアドバイスとか内部指摘があって、大いに議論されたことがあったのです。それで各庁、各局の長と外部の専門家を交えた地獄省刷新会議というのが立ち上げられて、大幅な統廃合が実施されたわけです」
「外部の専門家?」
「ええ。亡者様の中には娑婆で高名な大学教授であった方とか、官僚経験のある方とか、法曹界で活躍された方とか、保守系や革新系両方の政治家の方とか、それに大化の改新を主導された方とか、戦国大名をされていた方とか天下統一をされた方とか、幕末の志士の方とかがおられて、それはもう多士済々でありまして、そう云う有識者の亡者の方々に特にお願いをして、この刷新会議のメンバーとなって頂いたのです」
「それは、ひょっとしたら、藤原鎌足とか、武田信玄とか、織田信長とか豊臣秀吉とか徳川家康とか、坂本竜馬とか高杉晋作なんと云う連中の事ですか?」
 拙生はあんぐりと口を開いて驚きを表現するのでありました。
「いや、どのような方々がメンバーだったのかは一応非公開でしたから、ここでも特定のお名前を挙げるのはご勘弁頂きたいのですが、まあ、そんなようなお名前の方も、確かいらしたような、いらしていないような。・・・」
 審問官は曖昧に語尾を濁しながら片頬で笑って、その後顔を上げて拙生に意味ありげな目線を送ったりするのでありました。
(続)
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