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大きな栗の木の下で 104 [大きな栗の木の下で 4 創作]

「今日はもう帰ろうかな。思いがけず、御船君に逢えて嬉しかったわ」
 沙代子さんが云うのでありました。
「いや、俺の方こそ嬉しかったよ」
 御船さんはそう云いながら下を向くのでありました。
「これからも逢えるわよね、この公園に来れば?」
「勿論。いやいや、この公園じゃなくても、街の他の処でもさ」
「それはそうよね、同じ街に住んでいるんだしね」
 沙代子さんの言葉は、二人が出逢うのを如何にも偶然任せ以上には考えていないようで、御船さんは少し不本意な気がするのでありました。偶然出くわすなんてことではなく、逢う積りがあるならば逢えると御船さんは云いたいのでありました。
「それに、沙代子は今、高校生の頃と同じ家に住んでいるんだろう? そうだったら、住所も電話も判っているしさ」
「あたしは同じ処よ。御船君は?」
「俺もそうだよ。だから逢おうと思えばお互い何時でも連絡もつけられるし」
「それはそうよね」
 沙代子さんはそう云いながら御船さんの足下を見るのでありました。そこには沙代子さんの小さなバッグが置いた儘にしてあるのでありました。御船さんはそのバッグを取って沙代子さんに渡すのでありました。
「ああご免、有難う」
 沙代子さんは、その御船さんの行為がさも嬉しいような笑いを浮かべてバッグを受け取るのでありました。それから手に持っていたハンカチをその中に仕舞うのでありました。
「御船君、絶対前みたいな健康な体に戻れるから、リハビリ、頑張ってよね」
「うん、まあリハビリと云うよりは単なる散歩に近いけど、取り敢えず続けるよ」
 その御船さんの言葉を聞いて、沙代子さんは一つ頷いて、片手を上げるのでありました。
「じゃあ、今日はこれで」
「うん、またな」
 御船さんも片手を上げるのでありましたが、急に思い出したように云うのでありました。「ああいや、そこの下の市営団地の停留所まで一緒に行くよ」
「御船君も帰るの?」
「そうね。もう日暮れが近いし」
「じゃあ、そこまで一緒に行こう」
 沙代子さんが目を細めて云うのでありました。

 バスの停留所で沙代子さんと並んで沙代子さんの乗るバスを待っているのは、先程思い出した高校生の頃の情景と同じなのでありました。御船さんはなんとなく嬉しくなるのでありました。これで首に鈴をつけた白ネコが出てきたら、云うことなしなのだがと御船さんは考えるのでありましたが、しかし何処からもネコは現れないのでありました。
(続)
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