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大きな栗の木の下で 21 [大きな栗の木の下で 1 創作]

「そうね、演歌って感じじゃないか。どっちかって云うと軍歌か」
「それも違うぜ、全然」
「御船先輩はどんな音楽、聞くんですか?」
 日野さんが興味津々といった顔で聞くのでありました。
「フォークなんかも聞くし、ま、色々」
「ギターとかやります?」
「簡単なコード位は抑えられるよ」
「へえ、意外だ」
 日野さんは両眉を上げて目を見開くのでありました。
「いや、俺の話じゃなくて、その地理学科のフォーク歌手の話だろう、今は。で、そいつと沙代子がつきあっているんだ」
 御船さんはわけもなくなにやら苛々とし始めるのでありましたが、それは努めて気色には表わさずに云うのでありました。
「そう。その男、名前は矢岳って云うんだけど、沙代子に猛アタックかけて、それでつきあいだしたんだって二人は」
 赤崎さんが続きを話すのでありました。
「沙代子はどっちかって云うと、そう云う連中にはあんまり興味がないタイプだと思ていたけどなあ俺は、高校の頃からずっと」
「だからクールな感じの矢岳君に猛烈に云い寄られて、意表を突かれてついふらっとしたんじゃないの? 沙代子にはそんなタイプに対する免疫が、全然なかっただろうからさ」
「ふうん、成程ね」
 御船さんはそう云ってほんの少し俯くのでありました。「それで、具体的にはどんな感じのヤツなんだ、その矢岳ってヤツは?」
「具体的とか云われても。・・・そうね確かに背が高くてハンサムで、髪が長くて足も長くて、お尻が小さくて、ベルボトムのジーパンと五センチ位の黒いヒールなんか履いていて、・・・」
「目がすごく印象的ですよ、色っぽいし」
 日野さんが後を受けるのでありました。「なんか目線が強いって云うのか、見られるとどぎまぎしちゃいますもん、あたし。尤もあたしは、学園祭のコンサートで客席の前の方から見上げていただけなんですけど」
「ファンがいっぱいいるのよ、ウチの大学の中だけでも」
 赤崎さんが云うのでありました。
「そんで、赤崎もファンの一人か?」
「あたしは違うわよ、あたしはどちらかって云うと筋肉モリモリ型が好きだし」
「ウチの合気道部には筋肉モリモリ型はいないな」
「そうね。あたしは空手部の愛宕君みたいな方がタイプかな」
「ああ、あの何時も妙に張り切っているヤツか。ふうん、へえ、そうなんだ。それは知らなかった。いやところで、その矢岳ってヤツの話だ、今は」
(続)
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