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石の下の楽土には 72 [石の下の楽土には 3 創作]

 小浜さんは冷蔵庫の扉を閉めてから、壁の時計を見上げるのでありました。
「じゃあぼちぼち、暖簾を出しても良いですか?」
 その仕草を見て拙生が聞くと小浜さんは一つ頷くのでありました。
「うん。ほんじゃあ秀ちゃん、今日も張り切っていくか」
 店にはこの頃薬屋の主人が毎日顔を出すのでありました。酒屋の時津さんが一緒だったり、肉屋の高来さんが後で合流したりして、カウンターに陣取って賑やかに酒を酌み交わしているのでありました。当然商売ですから、小浜さんもその賑やか連中に混ざって冗談を飛ばしているのでありましたが、拙生は薬屋の主人が頻繁に現れるようになってから、この店の雰囲気が以前に比べて少し俗っぽくなったような気がするのでありました。だからと云って小浜さんがそれを許容している限り、拙生にはなにも文句をつける筋あいはないのでありましたが。
 小浜さんは先日、薬屋の主人と時津さんと高来さんの四人でスナック『イヴ』に行って来たようで、なにかにつけて『イヴ』のママの話で盛り上がっているのでありました。どうやら小浜さんも『イヴ』のママを取り巻く、入れ上げ連に入会したようでありました。
「来週の土曜日は『イヴ』の三周年記念パーティーだぜ」
 薬屋の主人が手酌で日本酒を猪口に注ぎなたら云うのでありました。
「そうらしいですね」
 小浜さんが頷くのでありました。
「ありゃあ、俺聞いてないよ、そんなこと」
 肉屋の高来さんが割りこむのでありました。
「なんでもその日は常連だけ十人ばかり招待して、勘定は格安の会費制で夜通し騒ぎまくろうって寸法らしいけど、お前招待されなかったのか?」
「うん、全然聞いてないよ」
「じゃあ、お前は常連として認めて貰ってないんだな、屹度」
「そんなことはないだろう、俺も結構通っているんだから」
 高来さんが口を尖らせて見せるのでありました。
「哲ちゃんはこの前酔い潰れちゃったから、聞き損ねたんだよ」
 酒屋の時津さんが高来さんの肩を叩きながら云うのでありました。「哲ちゃん」は肉屋の高来さんの愛称でありあます。
「ケンちゃんも招待されてんの?」
「うん、当然」
「だったら俺も大丈夫だよな。ケンちゃんよりは俺の方が通ってるもん」
「心配しなくても大丈夫だって。ちゃんとママの勘定に哲ちゃんも入ってるからさ」
 酒屋の時津さんが肉屋の高来さんを安心させるのでありました。
「二三杯飲んでカラオケ二三曲歌って、すぐに酔って亀みたいに寝ちまうんだから、お前は夜通しとか関係ないし無意味じゃねえか、どうせ」
 薬屋の主人が高木さんの肩を小突くのでありました。
(続)
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