石の下の楽土には 51 [石の下の楽土には 2 創作]
「あたしに任せてもダメだって思われているから、そんな風になったらちゃんとその娘とか奥さんが横から出てきて、お客さんの相手をするの。決まりきったお供え用の花束を幾つも作るくらいは、あたしにも出来るけど」
「花は好きなの?」
島原さんは今頃改めてそんなことを聞くのは意味のないことかなと思うのでありました。
「そんなに好きでもない。見ていたら心が癒されるなんて云うけど、あたしは特別そんなこともないし。あたし造花でも生花でも、色とりどりの花を見ていても、綺麗だとはあんまり思わないし、なんか目の奥が疲れるの、本当は。匂いも、好きじゃない」
「へえ、そう」
島原さんはなんとなく苦笑するのでありました。
「レジとか、店の中や外を掃除するとか、そっちの仕事の方があたしは実は好きなの。だから可愛げがないの、あたし」
そんな風に云う娘を、島原さんは寧ろ可愛いと思うのでありました。
・・・・・・
小浜さんが鰤大根を島原さんの前に出しながら云うのでありました。
「さてそろそろ、明日から違う料理にしましょうか?」
島原さんに鰤大根を出し続けて、そろそろ一月になるのでありました。「なにか、ご希望のものはありますかな?」
「そうですねえ・・・」
島原さんはそう云って鰤大根を見下ろしながら暫し考えるのでありました。しかし容易に思いつかないらしく、島原さんはなかなか鰤大根に箸をつけないのでありました。
「鍋焼き饂飩なんてどうですかね?」
拙生が味噌汁と丼に軽く盛った飯を出しながら云うのでありました。「ぼちぼち寒さも本格的になりますから、温かい汁物の料理だと体が暖まりますよ」
「そうですねえ・・・」
「饂飩はお嫌いですか?」
小浜さんが聞くのでありました。
「いや、嫌いではないです。寧ろ好きな方です」
「矢張りご飯がついた料理の方がお好みでしょうかね」
小浜さんが島原さんの前の空の徳利と猪口を下げるのは、島原さんに箸を動かす切掛けを与えるためでありましたが、それは余りに彎曲なサインでありました。
「まあ、そんなでもないですけど」
島原さんはそう云って未だ鰤大根を見ています。
「ああ、冷めないうちに召し上がってください。箸を下ろそうとした時に要らないことをお聞きしたりして、あい済みません」
小浜さんが直截に云って、促すように前に出した掌を微妙に上下に動かすのでありました。それでようやく島原さんは鷹揚な仕草で、大根の真ん中に箸を刺すのでありました。
(続)
「花は好きなの?」
島原さんは今頃改めてそんなことを聞くのは意味のないことかなと思うのでありました。
「そんなに好きでもない。見ていたら心が癒されるなんて云うけど、あたしは特別そんなこともないし。あたし造花でも生花でも、色とりどりの花を見ていても、綺麗だとはあんまり思わないし、なんか目の奥が疲れるの、本当は。匂いも、好きじゃない」
「へえ、そう」
島原さんはなんとなく苦笑するのでありました。
「レジとか、店の中や外を掃除するとか、そっちの仕事の方があたしは実は好きなの。だから可愛げがないの、あたし」
そんな風に云う娘を、島原さんは寧ろ可愛いと思うのでありました。
・・・・・・
小浜さんが鰤大根を島原さんの前に出しながら云うのでありました。
「さてそろそろ、明日から違う料理にしましょうか?」
島原さんに鰤大根を出し続けて、そろそろ一月になるのでありました。「なにか、ご希望のものはありますかな?」
「そうですねえ・・・」
島原さんはそう云って鰤大根を見下ろしながら暫し考えるのでありました。しかし容易に思いつかないらしく、島原さんはなかなか鰤大根に箸をつけないのでありました。
「鍋焼き饂飩なんてどうですかね?」
拙生が味噌汁と丼に軽く盛った飯を出しながら云うのでありました。「ぼちぼち寒さも本格的になりますから、温かい汁物の料理だと体が暖まりますよ」
「そうですねえ・・・」
「饂飩はお嫌いですか?」
小浜さんが聞くのでありました。
「いや、嫌いではないです。寧ろ好きな方です」
「矢張りご飯がついた料理の方がお好みでしょうかね」
小浜さんが島原さんの前の空の徳利と猪口を下げるのは、島原さんに箸を動かす切掛けを与えるためでありましたが、それは余りに彎曲なサインでありました。
「まあ、そんなでもないですけど」
島原さんはそう云って未だ鰤大根を見ています。
「ああ、冷めないうちに召し上がってください。箸を下ろそうとした時に要らないことをお聞きしたりして、あい済みません」
小浜さんが直截に云って、促すように前に出した掌を微妙に上下に動かすのでありました。それでようやく島原さんは鷹揚な仕草で、大根の真ん中に箸を刺すのでありました。
(続)
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