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石の下の楽土には 41 [石の下の楽土には 2 創作]

「いつもお昼はどうしているの?」
 島原さんが聞くのでありました。
「アパートの近くに、菓子パンとかこんなサンドイッチとか売ってる小さな店があって、何時もそこで買ってるの。このサンドイッチもそこで買ってきたのよ」
「この辺はなんにもないからねえ、スーパーも惣菜屋さんも、食堂も喫茶店も」
「そうね。その店が一つっきりね」
「お昼ばかりじゃなくて、夕食も困るんじゃないの?」
 島原さんは先程娘が料理が全然出来ないと云っていたので、そんなことも聞くのでありました。
「夕食もその店で、なにか適当に買って済ませることが多いかしら」
「駅前の商店街まで行くのは、大変かな」
「うん。面倒臭いし。それに一人で食堂とかに入るのは、あたし苦手だから」
「何時も菓子パンとかサンドイッチだけじゃ、厭きるだろうに」
「そうでもないけど」
 島原さんは自分も食事に大した手間をかけているわけじゃないのに、それでもまあ確かにそんなに不自由は感じていないし、無精から同じ食事を何日も続けていても、別に厭きもしていないのでありましたが。
「でも、毎日のことだから食事が楽しくないだろう、それじゃあ」
 これも自分が云えた義理ではないかと、島原さんは云った端から思うのでありました。
「別に楽しくなくてもいいの。それに偶には、駅前に買い物にも行くのよあたし」
「そうか。そりゃあ、そうだろうね」
「でも外食はしないの。苦手だし。だからスーパーとかで適当に買い物して帰るの」
「じゃあ、その内私がなにか美味い夕食でも奢ってあげようか?」
「そうね、もし、機会があったら」
 娘はそう云うのでありましたが、あんまり乗り気ではなさそうな口ぶりでありました。島原さんは秘かに少し落胆するのでありました。
 ・・・・・・
 島原さんが猪口を空けてそれを下に置くのを待って小浜さんが云うのでありました。
「ほんじゃあ、その娘を一回ここへ連れて来てくださいよ」
「いやあ、本人が外食が苦手だと云っているし」
 島原さんが徳利の酒を猪口に注ぎながら云うのでありました。
「苦手と云っても、今まで一切外で食事をしたことがないわけじゃないだろうし」
「そりゃあそうです。小学生の頃は、ほんの偶にだけど、家族揃って外に食事に行ったこともあったって話してましたよ。その時は嬉しかったって」
「一人で外食するのが苦手で、連れがあれば大丈夫なんでしょう」
「さあ、どうでしょう。そこまで確認しなかったから」
 島原さんは猪口に注いだ酒を飲み干すのでありました。
(続)
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