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石の下の楽土には 24 [石の下の楽土には 1 創作]

「そうだよな、考えたら秀ちゃんは今、本来は就職活動中なんだもんなあ。アルバイトの合間に、遊んでなんかいられないってところだ」
「もうかれこれ、就職活動も随分長くやってるんですけどね」
 拙生は頭を掻きながら云うのでありました。
「そろそろ二年てところか」
「そうですね」
 どう考えても二年間必死に、或いは有効に就職のための活動をやってきたわけではなかったから、拙生はもう一度頭を掻くのでありました。
「なんか、目途は立ったの?」
「いや、さっぱりです」
「今年も去年と同じでまだまだ不況の底らしいから、大変だよなあ」
 いくら不況とは云え、ろくに就職活動に身を入れているのではないから、就職出来ないのは当たり前と云えば当たり前の話であります。しかも当人があんまりそれを苦にしていないのでありますから、実に以って困ったものであります。
「自分なんかより、奥さんと一緒に釣りに行けばいいじゃないですか」
 拙生はすぐ前を駐車場まで歩く小浜さんに云うのでありました。
「冗談じゃない。態々そんな、折角の休日を台無しにするような真似が、出来ますかってえの」
 小浜さんが首を何度も横にふるのでありました。「カカアと一緒に休日を過ごすくらいなら、俺は休み返上で店を開けるね」
「いやしかし、そんなことばっかり云ってるけど、案外小浜さんは愛妻家なんじゃないかと自分は睨んでいるんですけど」
「いやいや、その睨みは全くの外れだね、残念ながら」
「小浜さんが奥さんのことをクソミソに云うのは単なる照れ隠しで、本当は奥さんなしでは生きられない人なんでしょう、実は?」
「とんでもない深読みのし過ぎだ、それは。俺はあのカカアから逃れるために、この世を生きているんじゃないかと最近考えるくらいなんだから」
「またまた、そうやって照れる」
 拙生は小浜さんを指差しながら笑うのでありました。
「秀ちゃんも将来嫁さんをもらったら判るよ、カカアと云うものの恐ろしさを」
 小浜さんが暗く低い声で云うのでありました。
「そう云えば前に上野の鈴本で、ウチのカカアは<おんな>じゃなくて<かんな>だ、とか圓楽が噺の中で云っているのを聞いたことがあります」
「なんだいそれは?」
「亭主の命を削るんだそうです」
「成程ね。道理で最近痩せてきたと思っていたら、そのせいか」
 小浜さんはカラカラと笑うのでありました。
(続)
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