石の下の楽土には 18 [石の下の楽土には 1 創作]
小浜さんはこめかみを人差し指で掻くのでありました。
「全く、島原さんはどこまでもお優しくていらっしゃるんだから」
「優しいと云うのではなくて、今じゃあその方がなんか自然な感じがするものだからね」
「でもその娘とは、島原さんが墓地にいらっしゃる時、必ず逢うと云うわけではないんですね?」
「まあ、タイミングがあわない時もあるのでしょうね。その娘さんも決まった時間に現れるのではないし、私も何時も同じ時間に墓地に行くわけでもないし」
「週に二回花を貰えると思って待っていても、島原さんが現れない場合もある。そんな時は仕方ないので帰って仕舞うわけだ。無愛想で失礼で図々しいに加えて、せっかちときたか。こりゃあ、益々以っていけ好かない娘ですねえ、アタシにしたら」
「でも、島原さんが現れなくても、花は何時も島原さんが差してくれているんだから、その娘にすれば、当初の目的は叶っているわけですよね、逢えなくても」
拙生が洗った皿を拭きながら云うのでありました。
「ああそうか。そうなると図々しいの嵩が二倍になるなこりゃあ。全く太えアマだ」
「いやいや、実際はそんなに嫌な感じの娘ではないんですよ」
島原さんは小浜さんの悪印象から、その娘を庇ってやっているのでありました。「人慣れしていないだけなんでしょう。それに私の方は、そんな風に待たれているのが、それ程悪い感じではないんで」
その島原さんの言葉に小浜さんがやや身を引いて額を掌で一つ叩くのでありました。
「ひやあ、全く島原さんは仏様みたいな心根の広いお方ですねえ。なんか拝みたくなってきましたよ、そのお姿を」
実際小浜さんは島原さんに向かって手をあわせるのでありましたが、島原さんはその小浜さんの仕草に苦笑いながら手を横に激しく振るのでありました。
「でも、毎日墓に来るのなら、その娘は決まった仕事とか持っていないんですかね。それとも学生かなんかで、暇を持て余しているのかしら?」
拙生は洗い終った徳利を水切りに逆さに立てながら云うのでありました。
「高校を出た後暫くは、ほら一つ手前の駅から坂を下った処に大きなミシン工場があるでしょう、そこに就職していたらしいんだけど、お母さんが亡くなったのを機にそこは辞めて、今は都営霊園近くの花屋で、アルバイトをしているとか云ってました」
「へえ、花屋のアルバイトか。それならなんとなく墓参りの時間の都合もつきそうですね」
拙生は納得して頭を小さく数回縦に振るのでありました。
「それに、都営霊園の近くならこちらの墓地へも近いしね」
「花屋なら、菊の二本くらい何時でも都合がつくだろうに」
小浜さんが云うのでありました。
「いやまあ、幾ら花屋で働いているからと云っても、そう簡単に毎日花が二本、手に入るものでもないでしょうし」
小浜さんはそう云って、その日三本目になる徳利を傾けて猪口を満たすのでありました。
(続)
「全く、島原さんはどこまでもお優しくていらっしゃるんだから」
「優しいと云うのではなくて、今じゃあその方がなんか自然な感じがするものだからね」
「でもその娘とは、島原さんが墓地にいらっしゃる時、必ず逢うと云うわけではないんですね?」
「まあ、タイミングがあわない時もあるのでしょうね。その娘さんも決まった時間に現れるのではないし、私も何時も同じ時間に墓地に行くわけでもないし」
「週に二回花を貰えると思って待っていても、島原さんが現れない場合もある。そんな時は仕方ないので帰って仕舞うわけだ。無愛想で失礼で図々しいに加えて、せっかちときたか。こりゃあ、益々以っていけ好かない娘ですねえ、アタシにしたら」
「でも、島原さんが現れなくても、花は何時も島原さんが差してくれているんだから、その娘にすれば、当初の目的は叶っているわけですよね、逢えなくても」
拙生が洗った皿を拭きながら云うのでありました。
「ああそうか。そうなると図々しいの嵩が二倍になるなこりゃあ。全く太えアマだ」
「いやいや、実際はそんなに嫌な感じの娘ではないんですよ」
島原さんは小浜さんの悪印象から、その娘を庇ってやっているのでありました。「人慣れしていないだけなんでしょう。それに私の方は、そんな風に待たれているのが、それ程悪い感じではないんで」
その島原さんの言葉に小浜さんがやや身を引いて額を掌で一つ叩くのでありました。
「ひやあ、全く島原さんは仏様みたいな心根の広いお方ですねえ。なんか拝みたくなってきましたよ、そのお姿を」
実際小浜さんは島原さんに向かって手をあわせるのでありましたが、島原さんはその小浜さんの仕草に苦笑いながら手を横に激しく振るのでありました。
「でも、毎日墓に来るのなら、その娘は決まった仕事とか持っていないんですかね。それとも学生かなんかで、暇を持て余しているのかしら?」
拙生は洗い終った徳利を水切りに逆さに立てながら云うのでありました。
「高校を出た後暫くは、ほら一つ手前の駅から坂を下った処に大きなミシン工場があるでしょう、そこに就職していたらしいんだけど、お母さんが亡くなったのを機にそこは辞めて、今は都営霊園近くの花屋で、アルバイトをしているとか云ってました」
「へえ、花屋のアルバイトか。それならなんとなく墓参りの時間の都合もつきそうですね」
拙生は納得して頭を小さく数回縦に振るのでありました。
「それに、都営霊園の近くならこちらの墓地へも近いしね」
「花屋なら、菊の二本くらい何時でも都合がつくだろうに」
小浜さんが云うのでありました。
「いやまあ、幾ら花屋で働いているからと云っても、そう簡単に毎日花が二本、手に入るものでもないでしょうし」
小浜さんはそう云って、その日三本目になる徳利を傾けて猪口を満たすのでありました。
(続)
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