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方言のはなし (1) [時々の随想など 雑文]

 前に『枯葉の髪飾り』を読んで頂いた方から、この中に出てくる二三の方言が判りにくいとのご指摘を頂戴したのでありました。少々の気遣いはしていた積りでありますが、確かに「やぐらし」とか「よそわし」とか「そいぎんた」と云った方言は判りにくかろうとは思いながら、なんとなく別の言葉で置き換えると気分が出ないものだから、そのまま使って仕舞うのでありました。
 佐世保近辺の方言を詳しく分類整理したことはないのでありますが、幾つかの系統で整理してみると面白いかも知れないと思うのであります。古語がそのまま生きている表現やら、使われる内に音韻が転訛したもの、強調の接頭語がついたもの、或いはそんな色々な要素が混合したもの等、なんとなく推測はつくのでありますし、またその使用域は佐世保に限らず、長崎県全般、九州地方全般と云うものもあるでありましょう。ここは気楽に、分類整理癖なんぞは脇に置いて、佐世保の方言について少々文字をばのたくってみたいと思うのであります。ちなみに先の「やぐらし」は「「煩わしい」でありますし、「よそわし」は「汚い」で、「そいぎんた」は「然様ならば」と云った意味の方言であります。
 「いっちょん」は「ちっとも」とか「全く」であり「よんにゅう」は「いっぱい」とか「多く」の意で副詞、或いは副詞的に使われるものであります。細君から部屋の片づけを命じられてちっとも捗らないでいると「いっちょんしとらんたい!」とお小言を頂戴するのでありますし、スナックでカウンターの内側のママに水割りを作ってもらっていて、ウイスキーに対する水の割合がやけに多いと判断した場合には「もっと酒の方ばよんにゅう入れんか!」と文句を云うのであります。
 「おもやいで」と云うのは「共同で」とか「一緒に」と云った意であります。刺身の醤油の小皿が足りない場合で、もう一つ小皿を出してくるのが面倒な時等に「醤油の小皿はお父さんと汎ちゃんでおもやいしなさい」と母親に云い渡されたり、運動会の鉢巻きが足りない場合、クラスの気の弱そうなヤツ二人に「鉢巻きの足らんけん、お前達は二人で一本ばおもやいで使え」と小学生が先生に云い渡されたりするのであります。兄弟の多い家庭に育った方はこの「おもやい」を、色んな場面で強制された経験が屹度おありでありましょう。
 「えすか」は「恐ろしい」の意で、「おめく」は「喚く」であります。これは古語がそのまま今に使われている例であります。夏の夜に近所の兄ちゃんの家に遊びに行って聞かされる廃院になった病院の噺は「えすか」噺であり、喧嘩を売られたチンピラが、内心怖いけれど引っ込みがつかなくなって、やけくそ気味に大声で相手を罵り騒ぐのは「おめく」ことによって自らの怯みを相手に見透かされまいとする魂胆からであります。
 「びっしゃげる」は「拉げる」の転訛で「潰れる」であることは判るのでありますが、「うっかんげる」は「壊れる」でありまして、どうしてこのような表現が生まれたのか俄かには判らないのであります。またところで、蛙を指す言葉に「ビッキ」と云うのがあり、これは「ヒキガエル」からきたのであろうと推察するのであります。子供の頃はヒキガエルに限らず確かに蛙一般を「ビッキ」と云っておりましたか。なんとなく可愛らしいような、そうでもないような呼称であります。
(続)
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