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枯葉の髪飾りCCⅩⅩⅩⅡ [枯葉の髪飾り 8 創作]

 実は拙生にとっては吉岡佳世の一家が岡山へ引越しすると云うのは、かなりショックな情報でありました。そうなると佐世保に今在る吉岡佳世の納骨壇も引き払われて、彼女の遺骨は岡山の方に改葬されると云うことでありましょうから。
「当然、今の納骨堂に在る佳世さんの遺骨も、岡山の方に移されるとでしょうねえ?」
 拙生はお父さんにそう聞くのでありました。
「うん、私は長男じゃあないから、本家の墓に移すと云うわけにもいかないけど、本家の寺の墓地に新しい墓を建てて、そこに移すことになるね」
「そうでしょうねえ・・・」
 拙生のこの言葉には自分ではそんなに意識してはいなかったのでありましたが、彼女の遺骨が佐世保からなくなって仕舞うことへの無念さが籠っていたようで、拙生の心境を気遣うようにお父さんがその後に云うのでありました。
「まあ、佐世保に在った方が井渕君も参ってくれるし、生まれて育った佐世保に眠る方が佳世にも良いとは思うんだけど、そうすると世話をする人が居なくなって仕舞うからね」
「いやあ、オイ、いや僕の都合なんかより、家族の住んどらす処に眠る方が、佳世さんも寂しゅうはなかでしょう」
 拙生はそう云ってビールを一口飲むのでありました。
「ひょっとしたら、少々非情なことを云うと思われるかもしれないけど」
 お父さんはそう云って言葉を切ってから拙生の目を見るのでありました。「井渕君もまだ若いんだし、これから良い出逢いが一杯あると思うんだよ。今すぐにはそんな気にはならないかも知れないけど、これを機になるべく早く佳世のことは忘れて、自分のこれからを大事にした方がいいとも、私は思うんだけど」
 拙生は父さんの顔から視線を外して下を向くのでありました。
「まあ、親父さんがそがん心配せんでも、時間が経てばなんとなく良い方に解決するて思うばい、井渕君の気持ちも。井渕君はオイなんかより、余程しっかりしとるけんね。ねえ、井渕君」
 お兄さんがそう云うのでありましたが、拙生がお兄さんの方を見て何も云わずに微かに笑って見せるのは、別に拙生がしっかりしていると云う今のお兄さんの言葉を、肯うためではないことは勿論でありました。
「親父さんにしたら、岡山に佳世の墓ば移すことで、なんとなく気持ちの整理のつくとやろう。そうせんことには、この儘佐世保に居るとは苦痛のごたるしねえ、親父さんは。傍で見とってそがん思うとくさ、オイは」
 お兄さんが続けるのでありました。お父さんは無言で頭の後ろに当てた手で、ゆっくり何度も髪を撫でつけるような仕草をしているのでありました。
「まあ、岡山に帰られる方が、お父さんの気持ちも安らぐやろうしですね。オイ、いや僕も葬儀の時の様子とか見とって、お父さんの消耗しとらすとが、かなり心配やったとですよ、実は。まあ、生意気なことば云うようやけど」
 拙生はお父さんを見ながら、なんとなく遠慮がちにそう云うのでありました。
(続)
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