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枯葉の髪飾りCCⅩⅩⅠ [枯葉の髪飾り 8 創作]

 いよいよ佐世保を離れる日も、拙生は納骨堂の吉岡佳世を訪ねるのでありました。旅行カバンを持って立ち寄るのは、二月に拙生が大学受験に東京へ出発する当日、彼女を病院に訪ねたのと同じなのでありました。
<ほら、今日東京に戻るけん、ちょっと奮発して少し大きか花束ば買うてきたばい>
 拙生は何時ものように万年筆を壇に置いてから、三ヶ町の花屋で買って来た花束を写真の吉岡佳世に見せるのでありました。
<うわあ、有難う>
 写真の吉岡佳世が喜ぶのでありました。
<後で花瓶に水ば入れて、差しとくけんね>
<今日で最後ね、井渕君が逢いに来てくれるとも>
 写真の吉岡佳世が云うのでありました。
<うん、まあ、最後て云うか、今度は十二月に帰って来るけど、それまではちょっとお別れて云うことになるね。冬休みに入ったら飛んで帰ってくるけんね。寂しかかも知れんけど、それまで我慢しとかんばばい>
<うん、あたしは大丈夫よ>
 写真の吉岡佳世が微笑むのでありました。
 拙生は春に彼女と別れた時のことを思い出すのでありました。あと数日で拙生が佐世保を発つと云う日、彼女の家の彼女の部屋で、吉岡佳世は拙生に心配させまいとして矢張り同じように、拙生が傍に居なくても大丈夫だと云ってみせるのでありました。涙が出るくらいに寂しいのは確かだけれども、くよくよしていても始まらないから、自分のことは気にしないで、一杯色々なことを経験してねと彼女は健気に拙生を励ましたのでありました。
<冬にまた帰って来る時は、一杯お土産話ば持って帰って来るけんね>
 拙生はそう云いながら笑むのでありましたが、これも前に彼女に云ったことのある科白だったように思うのでありました。
<うん、また、色々東京でのことば聞かせてね。楽しみにしてるから>
 写真の吉岡佳世がそう云った後に、ふと拙生から目を逸らしたような気がするのでありました。その彼女の微細な表情の翳りに、拙生は今度もまた彼女が拙生のお土産話の披露を待つことなく、どこか遠い処に行ってしまうのではないかと案ずるのでありましたが、しかし考えてみたらもうこれ以上遠くに行くことなど、彼女には出来ない筈だと考えなおすのでありました。
<ああそうだ、オイのアパートの近所とか、お前ば連れて行こうて思うとった場所とかの写真ば撮って来るけんね。お前がひょっとしたら住むことになるかも知れんやった、豪徳寺辺りの写真とかも、撮って来ようかね>
<そうね、井渕君のアパートの辺りの写真は興味あるね、前に少し聞いたことあるから。でもね、あたしが一番興味のある写真は、井渕君の新しい彼女の写真かな、本当は。新しい恋人が出来たら、ちょっとその人の写真もあたしに見せてね>
 写真の吉岡佳世がそう云って全く無邪気に目を輝かせるのでありました。
(続)
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