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枯葉の髪飾りCCⅩⅩ [枯葉の髪飾り 8 創作]

<隅田君とか安田君とかとは、帰って来てから会ったと?>
 写真の吉岡佳世が聞くのでありました。
<うん、何回か会うたばい、島ノ瀬町のエデンて云う喫茶店で>
 前にも云ったかとは思いますが島ノ瀬町は四ヶ町アーケードと三ヶ町アーケードの繋ぎ目で、丁度玉屋デパートの辺りであります。玉屋の前の道の斜向かいにちょっとした広場と云う感じの島ノ瀬公園があって、そのエデンと云う喫茶店は島ノ瀬公園横にあります。拙生が小学生の頃から在った喫茶店なので見知ってはいたのでありますが、隅田の指定によりそのエデンで待ちあわせをするとは終ぞ思いもよらなかったことでありました。
<エデンなら、あたしも知ってるよ>
 写真の吉岡佳世が云うのでありました。<久しぶりやから、色々話の弾んだやろう?>
<いや、お前の葬儀で会うたから、全くの久しぶりて云うことじゃなかったとやけど、まあ、隅田と安田とオイの三人で、東京の話とか博多の話とか、そいから同級生の消息の話とかで、結構盛り上がったかね>
<二人とも高校生の時とは、変わってた?>
<いやあ、あんまり変わっとらんね>
 そう云った後に拙生は話題を変えるように一つ手を打つのでありました。<そう云えばぞ、安田と島田がぞ、なんかあっちで良い仲になっとるらしかぞ>
<へえ、本当?>
<うん、安田は照れて曖昧な云い方しかせんやったけど、隅田が色々教えてくれた。何時も二人でデートしとるとて。隅田が、オイは完全に除け者にされとるて云いよった>
<なんか、そうなるのかなあて、前から思わんでもなかったけど>
 写真の彼女が云うとその前に置いてある万年筆が、少し身震いするように動いたような気がするのでありました。<井渕君も、そがん思わんかった?>
<うん、思いよった。あの二人はなんだかんだて反発して口喧嘩ばっかいしよるようやけど、そいでも全く口ばきかんようになるわけじゃなかし、それは詰まりお互いば、大いに気にかけとるからやろうて思うとったばい。なんかちょっとした切っかけさえあればその反発が、すぐに求愛みたいなやつにころっと変わるやろうて、なんとなく考えとった>
<そうそう、そうよね>
 また万年筆が震えたように見えるのでありました。<なあんか、羨ましかね>
<羨ましかことのあるもんか、お前にはオイが居るやっか>
 拙生がそう云うと万年筆が急に動きを止めたような気がするのでありました。万年筆はその後、完全な静物と化してしまったのでありました。
<今日はそろそろ帰ろうかね>
 拙生が云うと写真の吉岡佳世が悲しそうな微笑みをするのでありましたが、それは単に拙生が帰ることを寂しがっていると云うよりは、なにかもっと別のことで彼女はその微笑みを曇らせたような気がするのでありました。拙生は静物と化した万年筆を取り上げると、それを胸のポケットに仕舞うのでありました。
(続)
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