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枯葉の髪飾りCCⅨ [枯葉の髪飾り 7 創作]

「あんた等、仲間がビラ配りの仕事しているのに、こんなことしてて良いのかい?」
 拙生はふり返って云うのでありました。
「それが俺等の仕事だからな」
 背の高い方が云うのでありました。今思うと彼等は学生にオルグをかけて陣営に引きこむ役割を担っていたのでありましょう。配るビラに対する反応や受け取る態度を観察して、これはリクルート出来ると思った学生に声をかける仕事であります。拙生はそんな役目の男に目をつけられたと云うことであります。
「お前等、性質が悪いな」
 拙生はもうこうなったら喧嘩腰であります。
「いや、待って。なにも君と喧嘩しようと云うんじゃないんだから」
 小柄の方が拙生に笑いかけるのでありました。「君はこの闘争の意味も大方理解しているようだし、意識も高そうだから俺達と連携出来ると思うんだよ」
「意味とか意識とか連携とか、知るかそんなこと」
「そう興奮しないで、冷静に話そうぜ。俺達の話を聞くだけは聞いて欲しいんだよ」
 下手に出てこられると拙生としても逆に厄介になるなと思って、舌打ちをするのでありました。
「用があるから、この辺で勘弁して貰いたいんだけど」
 拙生は懇願口調で云うのでありました。
「判った。じゃあ、連絡先を教えて貰えないかな?」
「つき纏うヤツに、ご丁寧に連絡先まで教える馬鹿が居るか!」
 拙生はまた声を荒げるのでありました。背の高い方が拙生ににじり寄るのは、拙生の言葉で雰囲気が一気に険悪になったからでありましょう。
「まあ、冷静になろうよ、お互いに」
 小柄の方が前に出ようとする背の高い方を制しながら云うのでありました。「現状の大学の機構が社会的に、もう機能していないのは、君も判るよねえ」
「知るか!」
「云ってみれば欠陥品になってしまったわけだよ、今の大学は。その根本的な欠陥を結局そのままにして、自分達の都合の良いように改変しなおそうとしている大学当局に、少しは当事者である学生の意見も聞いてくれと訴えているわけだよ我々は。これは判るよねえ? しかし当局はまったく民主的な手続きを無視して・・・」
 拙生の視界がいきなり真っ赤になって、彼の言葉が遮断されるのでありました。それは彼の発した「欠陥品」と云う言葉に因るのでありました。拙生の頭の中に大和田の顔が現れるのでありました。高校時代の体育祭の帰りに大和田が発した「欠陥品」と云う吉岡佳世を評する言葉に拙生が反応したのと同じ現象が、拙生の脳でその時起きたのでありました。拙生は彼の前に一歩出ると、彼の鼻に向かって拳を一直線に突き出しているのでありました。拙生の一撃は彼の鼻を確実に捉えているのでありました。彼は悲鳴を発する暇もなく、その場に仰向けに転倒するのでありました。
(続)
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