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枯葉の髪飾りCCⅦ [枯葉の髪飾り 7 創作]

 拙生はあらぬ疑いをかけられても詰まらないので、彼の指示に従って大学を後にするのでありました。用事が果たせないのならアパートに帰ってまた引き籠もるだけであります。拙生はとぼとぼと歩いて最寄り駅まで戻るのでありました。
 駅前が騒然としているのでありました。来た時は別段なんの変哲もなかったのでありましたが、戻ってみるとさして広くもない駅前にヘルメットを被った学生が大勢居て、アジビラを配っているのでありました。それにその中の一人がハンドスピーカーを使って扇動的な言葉を早口に怒鳴っているのでありましたが、スピーカーから吐き出されるその声は嫌に高音で、まるで子供が駄々を捏ねているような風に聞こえるのでありました。
 駅の改札口へ向かって歩いている拙生にもビラが差し出されるのでありました。不意だったものだから拙生はそのビラをつい受け取るのでありました。そこには妙に角ばっていながら或る部分は曲線を強調したような独特の文字が、騒がしく並んでいるのでありました。拙生は読むと云うのではなくて、眺めると云った風にその紙片に目を落としながら歩くのでありました。
 拙生は改札口の手前でヘルメットの学生に呼び止められるのでありました。
「君、学生だろう、ちょっといいかな?」
 小柄な、口元に愛嬌のある顔の男でありました。彼の横には、こちらは背が高くて如何にも鍛えていると云った風の体つきをした男が一人つき添っているのでありました。拙生が立ち止まると小柄な男は、拙生を四つ並んだ改札口の端の方へと導くのでありました。
「学校の様子は見た?」
 彼は拙生に聞くのでありました。
「ええ、見ましたが」
「どう思った?」
「どうって、・・・まあ、困ったなあと」
「なんでああなったか、判る?」
「大学が物価スライド制の学費を導入しようとして、それに貴方達が反対して・・・」
「そう。一応判ってんじゃん、君は」
 彼はそう云って拙生に親愛の籠もった笑みを投げるのでありました。「そう云う制度を使って学費を値上げしようとする大学を、どう思う?」
「まあ、一般的には、値上げは困りますね、なんにしても」
 その頃は不況下のインフレーションが高速度に進行している時世でありました。
「そうなら、君はそう云う大学の策謀に対して、なにかものを云いたくはないの?」
「いや、今のところは特段」
 拙生はそう返すのでありましたが、この拙生の返答は如何にも自分の鈍さを晒しているような気がしてきて、そんな必要等ないはずなのに妙に恥ずかしくなってくるのでありました。
「例えばサルトルとか、知ってる?」
 彼は急にそんなことを云い出すのでありました。
(続)
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