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枯葉の髪飾りCCⅣ [枯葉の髪飾り 7 創作]

 棺の蓋が閉められて釘が打たれるのでありました。拙生はこれで、寝台特急さくら号の扉が閉まった時のように、いやむしろそれよりも遥かに決定的な形で、彼女と隔てられたような気がするのでありました。吉岡佳世はもう既に虚しい亡骸となっているのではありましたが、しかしもうなにがあっても、彼女は棺の中から出ることは叶わないのだと拙生は思うのでありました。棺の蓋を釘づけにすることは、拙生にはひどく容赦のない作業のように映るのでありました。
 拙生もその一端を荷わせて貰って彼女の棺は葬祭場を出て、黒い大きなワゴン車に乗せられるのでありました。後は親族のみがつき添って、その身をこの世から消し去る儀式の場へと運ばれるのであります。
「井渕君、どうするの、この後は?」
 大きなワゴン車の助手席に乗りこもうとした彼女のお父さんが、ふと動作を止めて横で見送る拙生に聞くのでありました。
「はい、明日東京に帰るだけです」
「もしよかったら、火葬場まで一緒に来る?」
 拙生はそのお父さんの申し出に何故かひどくうろたえるのでありました。
「オイ、いや僕は、ここで見送らせてもらいます」
 そう云う拙生に彼女のお父さんは、そう、と云って何度か頷くのでありました。拙生は彼女のお父さんに一礼するのでありましたが、顔を起こした途端拙生の目から一筋流れた涙は、吉岡佳世がこの世から間違いなく去ることへの惜別の涙でありました。拙生は目線を彼女のお父さんの顔の位置まで上げられずに、彼女のお父さんが胸に抱く吉岡佳世の白木の位牌を見ているのでありました。位牌の文字が霞んでいるのでありました。
 吉岡佳世を乗せた車は見送る人を後に残して、ゆっくりと動き出すのでありました。車が道に出るために葬祭場の門を出て曲がると、その姿はあっけなく拙生の視界から消え去るのでありました。拙生は足の力が急に抜けてようやく立っているだけでありました。そんな拙生に隅田が横から声をかけるのでありました。
「大丈夫か、井渕?」
 拙生は隅田を見て頷くのでありましたが、なんとなくぎごちない頷き方であることが自分でも判るのでありました。
「久しぶりに会ったことけん、ちょっとその辺でお茶でも飲んでいくか?」
 安田が云うのでありました。
「いや、なんか疲れたけん、オイはこれで帰る」
 拙生はそう安田に返すのでありました。
「ああ、そうか。まあ、そうやろうね」
 安田はそう云って拙生の背に軽く手を添えるのでありました。「そんなら、また夏休みにでん、ゆっくり会おうで。夏休みは帰って来るとやろう?」
 拙生は頷きながら少し笑おうとしたのでありましたが、強張った顔の筋肉は拙生の意の儘にはなかなか動いてくれないのでありました。
(続)
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