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枯葉の髪飾りCⅩCⅢ [枯葉の髪飾り 7 創作]

 吉岡佳世の通夜と告別式の日時と場所を彼女のお兄さんは、一応知らせておくからと前置きして拙生に告げるのでありました。遠いし、列車の手配など煩わしいし、それにぼちぼち始まるであろう大学の前期試験の都合もあるだろうから、もし都合がつかないようなら態々葬儀に参列することはないと云い添えてくれるのでありましたが、拙生はなにをさて置いても帰って彼女とのお別れをしたい旨伝えて電話を切るのでありました。
 こうなった以上、前期試験などどうでもよいのでありました。いや前期試験ばかりではなく、東京での大学生としての生活そのものも一気に色褪せるのでありました。来年になったところで、もう吉岡佳世は東京には来ないのであります。彼女が東京へやって来ることを楽しみに拙生は一足先に東京に出てきた積りでもあったから、東京に拙生が留まる意味の殆どが一瞬に消え失せたような気がするのでありました。
 叔母が居間から出てきて「なにかあったと?」と聞くのでありましたが、屹度電話に応対する沈痛な拙生の雰囲気が、居間に居る叔母にも伝わったのでありましょう。
「高校の時の友達が、今朝亡くなったて云う電話やった」
 拙生はそう云うのでありました。「葬儀に出るけん、すぐに佐世保に帰らんばならん」
「ああ、そうね・・・」
 叔母はそう返すのでありましたが、拙生の日頃にはない重苦しい言葉つきに気押されて、もうそれ以上の言葉を重ねられないと云った表情で拙生を見るのでありました。
「そんじゃあ、支度のあるけん」
 拙生はそう云って叔母に手を挙げて見せるのでありました。
「急なことけん、今からさくら号の席の取れるやろうか?」
「今なら夏休みまでまあだ間のあるけん、大丈夫て思うけど、もしさくら号の指定席の取れんやったら、大阪か岡山まで新幹線で行って、そこから列車ば乗りついで帰る積り」
 その頃は山陽新幹線が岡山までしか開業していなくて、翌年の春に博多まで延長される予定なのでありました。
「さくら号の席の、うまく取れるならよかけどねえ」
 叔母が心配してくれるのでありました。
「まあ、なんとかなるやろう」
 拙生はそう云って、もう一度叔母に向かって手を挙げてから玄関を出るのでありました。よかったら今から朝食を用意しようかと叔母が云ってくれたのでありましたが、悠長に食事を摂る気分にはとてもなれなかったから拙生はその申し出を断るのでありました。
 アパートの自室に戻るまでに、今日の夕方発のさくら号に乗れなかったとしても、今日の内に大阪か岡山までたどり着いておけば、明日中には間違いなく佐世保に帰り着くだろうと拙生は考えるのでありました。吉岡佳世の通夜は明日の夜、告別式が明後日と云う話でありましたから、それならば通夜にも間にあうはずであります。いっそのこと、列車ではなく空路と云う手もあります。拙生は佐世保までのルートを色々と思い描くのでありましたが、それは一心にその思考にかまけることで吉岡佳世を喪失した衝撃から、その場凌ぎに逃避しようとしていたために他ならないのでありました。
(続)
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