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枯葉の髪飾りCⅩCⅠ [枯葉の髪飾り 7 創作]

 熱に浮かされていた二日間に断続的に見続けた吉岡佳世と拙生の、公園での邂逅から佐世保駅での別れまでをなぞるような夢を、拙生は殆どすっかり覚えているのでありました。ようやくに霧が晴れた拙生の頭の中にその夢の断片が澱のように重く沈んでいて、それは時々攪拌されて淡い光を発しながらゆっくりと舞い上がるのでありました。その不思議な夢は、夢と云うもののご多聞に漏れずどこかが現実とは違っていて、二人の立場がすっかり逆転していたり前後の辻褄があわないようなものでありましたが、しかし夢の中の拙生にとっては妙に現実感のあるものでありました。拙生はそんな夢を何故見たのか、布団の上に起き上がってその意味を探ろうしているのでありました。
 そこに叔母の声が侵入してきたのでありました。叔母は拙生の反応が遅いのに焦れて部屋のドアを何回か叩くのでありました。
「秀ちゃん、起きとると、ねえ、秀ちゃん?」
 拙生は布団の上に座った儘「ああ、今開けるけん」と云ってから徐に立ち上がるのでありました。立ち上がった途端に目眩がしたのは、発熱の名残と、長時間の睡眠と覚醒の繰り返しによる疲労と、それに夢の残滓がまだ頭の中を舞っていたためでありましょう。
「まあだ、寝とったとやろう?」
 ドアを開けた拙生に叔母が云うのでありました。
「うん、まあ」
 拙生はそう云って寝乱れた頭を掻くのでありました。
「あれ、ひょっとしたら秀ちゃん」
  叔母は拙生の顔を驚いたように覗きこみながら云うのでありました。「なんかここ二三日、顔ば見らんやったら、急に窶れたごと見えるけど、もしかして病気しとったとやなかやろうね?」
「うん、ちょっと風邪ばひいとったごたるけど、もう大丈夫、今朝はすっきりしとる」
「大丈夫ね?」
「うん、熱もすっかり抜けたし、体もいっちょん辛うはなかばい、今は」
「そうね、そんなら、よかとけど」
 叔母はそう云って拙生の言葉を確かめるために拙生の額に掌を当てるのでありました。
「オイに電話てね?」
 拙生は叔母の掌が額から離れるのを待って聞くのでありました。その後に今朝とは云ったものの本当に朝なのか、それに朝だとしてもいったい何時頃なのかと云う疑問が頭を掠めるのでありました。長い半睡眠状態で拙生の時間の感覚が混乱しているのでありました。
「ああ、そうそう、秀ちゃんに電話の入っとるとやった。吉岡さんて云う人から」
 叔母は本来の来訪の意味を思い出して、慌ててそう告げるのでありました。「待って貰うとるけん、呼びに来たとやった。急いでウチに来んばよ、なんか急用のごたるけん」
「判った、すぐに行くけん」
 拙生がそう告げて一旦部屋の奥に戻るのは、ズボンを穿いてシャツを着るためでありました。
(続)
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