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枯葉の髪飾りCLⅩⅩⅩⅥ [枯葉の髪飾り 7 創作]

 拙生は彼女が拙生の説得を聞き入れてくれたことを、喜ぶのでありました。しかしそのくせ、彼女と公園でデート出来ないことを半面残念にも、思っているのでありました。
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 彼女の入院する病室は病院本館の中には、ないのでありました。それは病院裏の公園を横切って、暫く歩いた所に在る、病棟らしいのでありました。受付にそう指示された吉岡佳世は、少し離れたところにある長椅子で待っている拙生の傍に戻ってきて、その旨を、告げるのでありました。「この建物の他に、病棟なんかあったかね?」拙生は怪訝な顔をして彼女に、聞くのでありました。「さあ、知らんけど、受付でそう云われたから」吉岡佳世はそう云って拙生を、見下ろしているのでありました。「そんなら、兎に角、その病棟に行ってみようで」と云いながら拙生は立ち上がって、吉岡佳世と並んで病院本館の裏口から、外に出るのでありました。
 期せずして公園の中を、吉岡佳世と並んで歩くことになった拙生はそれを内心、喜ぶのでありました。彼女と入院を放ったらかしにして、公園でデートするのは慎むべき行為でありましたが、入院病棟へ行くために、不可避に公園の中に立ち入るのは、これはいた仕方ないのだと、誰にと云うわけでもなく、拙生は心の中で、弁明をしているのでありました。吉岡佳世も拙生の顔を見ながら微笑むのは、拙生と公園の中を歩ける理由が出来たことを喜んでいるために、他ならないのでありました。拙生は彼女の微笑みに、同じような微笑みをしながら、二三度頷き返しているのでありました。
 銀杏の木の下のベンチまで来て、二人はそこへ、腰を下ろすのでありました。「ちょっとくらい、ここで座って話をしても、誰からも、なんとも云われんよねえ?」と吉岡佳世は拙生に、聞くのでありました。「多分、大丈夫て思うけど」「病棟に行く途中で、ちょっと休むためにここに座ったとけん、あたし達悪いことしとるわけじゃ、ないよねえ?」「うん、ちゃんと理由があって、ここに座るとは、なあんも問題なか」「入院病棟が、遠くにあるとやけん、誰でもこうして、途中で一休みするよねえ。他の人に見られても、別に後ろめたいことなんか、絶対ないよねえ?」「うん、屹度、大概の入院する患者がすることに違いなか」拙生と吉岡佳世は公園のベンチに腰をかけたことが、誰からも非難されるものではないと云うことを二人してしつこく、確認しあっているのでありました。拙生は不意に、しかし吉岡佳世の手術は、もうとっくに済んだのではなかったかしらと、ちらと思うのでしたが、それを彼女に確認するのは、してはいけないことだと、思うのでありました。
 銀杏の木の黄色く色づいた葉群れが、さわさわと乾いた音をベンチの二人に、ふり注ぐのでありました。黄色い枯葉の幾枚かが、音に合わせて微風に弄ばれながら二人の上に、落ちてくるのでありました。拙生はその内の一枚が、吉岡佳世の頭の上に落ちて、そこへ髪飾りのように止まることを期待しながら、枯葉の落ちる軌跡を目で、追うのでありました。枯葉の髪飾りを頭に飾った彼女の姿を、拙生は無性に見たいと、願うのでありました。しかし枯葉は、拙生の期待を弄ぶように、彼女の顔の横を舞いはするものの、頭の上には決して、落下してはくれないのでありました。
 ・・・・・・
(続)
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