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枯葉の髪飾りCLⅩⅩⅩⅣ [枯葉の髪飾り 7 創作]

 拙生と吉岡佳世は慌てて体を離して、居住まいを正して待っていると、三人が居間に、入って来るのでありました。「ポテトサラダとマカロニサラダと、吉岡はどっちが好いとるとや?」と云いながら隅田が拙生の横に、座るのでありました。「クリスマスて云うとに、小城羊羹のごたっとば買って来るとやもんねえ、この馬鹿ちんの安田は」島田が吉岡佳世の横に座る前に、安田の腕を平手で、叩くのでありました。「小城羊羹に蝋燭ば立てれば、如何にも和風のクリスマスになるやろうもん」安田が島田に叩かれた腕を摩りながら、抗弁しているのでありました。
 台所の扉が開いて、吉岡佳世のお母さんが大ぶりなケーキを両手で持って居間に、入って来るのでありました。「皆、佳世のためによう来てくれたね。有難う」と彼女のお母さんは云いながら、ケーキをテーブルの真ん中に、置くのでありました。「蝋燭に火ばつけたら、電気ば消さんばよ、浩輔」と彼女のお母さんが云うと、いつの間にか部屋の照明のスイッチの傍には彼女のお兄さんが、立っているのでありました。「誕生日にケーキに立てた蝋燭の火ば消すとは、なんとなく意味のあるような気のするばってん、クリスマスのケーキに蝋燭ば立てるとは、オイは解せんね」とお兄さんは云いながらも部屋の電気を、消すのでありました。
 蝋燭の火に吉岡佳世の顔が仄かに、照らされているのでありました。その赤い光と、繊細な黒い影に彩られた彼女の顔はとても幻想的で拙生は暫し、見惚れるのでありました。「佳世は井渕君に、プレゼントのあるとやろう?」彼女のお母さんが吉岡佳世に、聞くのでありました。「うん。もうさっき、渡した」と云って彼女は拙生を、見るのでありました。彼女の瞳にケーキの蝋燭の火が、映っているのでありました。その瞳の中に拙生は、吸いこまれそうでありました。しかし不意に、拙生は拙生から吉岡佳世へプレゼントを渡していないことに、気づくのでありました。拙生は、狼狽するのでありました。「しまった、吉岡にやるプレゼントば、持って来んやった!」拙生はそう、叫ぶのでありました。それはひどく重大な、過失なのでありました。「急いで、これから取って来るけんね、ご免ね吉岡」拙生は吉岡佳世に、そう云うのでありました。「ううん、大丈夫よ。あたしはプレゼントなんかなくても、平気」と吉岡佳世が笑いながら云って拙生の頬に、掌を当てるのでありました。拙生はその彼女の掌に唇を軽く押しつけてから、立ち上がるのでありました。
 彼女の家の玄関を飛び出した拙生は八幡神社に向かって、走るのでありました。彼女の手術がうまくいくように、拙生はお守りを買いに、行こうとしているのでありました。
 ・・・・・・
 八幡神社の境内は、晴れ着を着て拝殿に掌をあわせる初詣の人や、立ち止まって新年の挨拶をする人達で、ごった返しているのでありました。吉岡佳世の家では、クリスマスのはずだったのでありますが、八幡神社の中はもう、正月になっているのでありました。それを拙生は不思議に不思議とは、思わないのでありました。
 人の流れに乗って、拙生は拝殿に進んで、吉岡佳世の手術がうまくいくようにと念じて、柏手を打って拝礼するのでありました。それからお守りを買い求めて、序でにお御籤を引いてから、急いで吉岡佳世の家に、とって返すのでありました。
(続)
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