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枯葉の髪飾りCLⅩⅩⅩⅢ [枯葉の髪飾り 7 創作]

 彼女の体温を宿した吐息が拙生の唇に、吹きかかるのでありました。「お母さんの、見とらすぞ」拙生はそれ以上、彼女に顔を彼女に近づけないように首筋に力を、入れているのでありました。「お母さんは、買い物に行かしたもん」と吉岡佳世が、云うのでありました。またもや彼女の吐息が拙生の唇に、かかるのでありました。そんな筈がないと、拙生は顔を横に向けて、彼女のお母さんの姿を認めようとすると、今までそこに居たはずの、彼女のお母さんの姿が、ないのでありました。「他には誰も居らんから、安心して」吉岡佳世が拙生の頭に手を回して、髪の毛の中に指を差し入れて、拙生の顔を自分の方に、引き寄せるのでありました。顔を近づけながら拙生は、それでも同室の他の入院患者の目があるだろうと、辺りに視線を飛ばすのでありましたが、病室には彼女と拙生以外の人の姿は、見当たらないのでありました。
 柔らかな彼女の唇が拙生の唇に触れると、拙生は、なんとも云えぬ幸福感に、満たされるのでありました。「あたしの赤い水筒、失くしてしまったと」吉岡佳世が、急に唇を離してそんなことを、云うのでありました。「何処で、失くしたとか?」と拙生は、聞くのでありました。彼女の吐息が拙生の唇にかかったように、拙生の息も、今彼女にかかっただろうと、聞きながら、思うのでありました。それを彼女は不快に感じないかしらと拙生は、不安になるのでありました。「何処で失くしたか、あたし判らんの」「体育祭の時に、持っとった水筒やろう?」「そう、その水筒」「体育祭の後、学校に忘れて来たとじゃなかとか?」「そうかも、知れん」吉岡佳世はそう云って、拙生の顔を引き寄せてまた唇を、あわせるのでありました。「オイが、探し出してきてやる、絶対」と拙生は、云うのでありました。「うん」と吉岡佳世は云って、拙生の唇を軽く、吸うのでありました。「大事か水筒やろう?」「そう。すごく、大事か水筒」拙生も彼女の唇を、吸うのでありました。
 ・・・・・・
 拙生は吉岡佳世に、彼女が失くした赤い水筒を手渡すのでありました。「わあ、有難う。何処にあったと?」吉岡佳世が大袈裟に、喜んで見せるのでありました。「本部席のテントの中にあった。椅子の背凭れに、かかっとった」彼女は受け取った水筒に、頬擦りをするのでありました。「じゃあ、はい、これはお返し」と彼女が云って拙生に万年筆のスペアインクと三冊のノートを、くれるのでありました。「こがんこと、して貰わんでも、よかったとに」そう云いながら拙生はそれそ受け取ることを、躊躇うのでありました。「クリスマスプレゼントやけん、ちゃんと受け取って」吉岡佳世が、云うのでありました。「クリスマスプレゼント?」拙生は首を、傾げるのでありました。「今日はクリスマスパーティーば、あたしの家で、することになっとったやろう?」「そうやったっけ?」「もうすぐ島田さんと隅田君と安田君も、ここに来るよ。五人で約束したやろう。忘れたと?」拙生にはそんな約束をした覚えが全く、ないのでありました。しかしそう云うと、吉岡佳世が悲しむだろうと思って「ああ、そうやった、そうやった」と調子を、あわせるのでありました。
 吉岡佳世が拙生を見つめながら「あの三人が来る前に、ねえ、チューしようよ」と、云うのでありました。拙生と彼女は急いで体を寄せあい唇を、重ねるのでありました。その時玄関のチャイムが、鳴るのでありました。
(続)
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