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枯葉の髪飾りCLⅩⅡ [枯葉の髪飾り 6 創作]

「ちょこっと電話ば貸してくれんかね」
 拙生は勝手に玄関を上がると居間に向かって声をかけるのでありました。すぐに襖が開いて叔母が出てきます。
「佐世保にかけると?」
「うん。家と、それから別の友達のところに一本」
「入学式の報告ね?」
「そう。電話代は後で清算するけん」
「そがんとは気にせんでよかとよ。ああ、家にかけるとなら要件の終わったら、その後ちょっと叔母さんに代わってくれんかね?」
「うん判った」
 拙生はそう云って玄関の靴棚の上にある黒い電話機に手を伸ばすのでありました。先ずは最初に拙生が家に電話をかけるものと思ったのか、叔母は拙生の傍に立った儘で拙生がダイヤルを回すのを見ているのでありました。そうなると吉岡佳世の家より先に実家の方に電話するべきかと考えて、拙生は自宅の電話番号を回すのでありました。
 ごく手短に入学式が滞りなく終わって明日からいよいよ大学に通う旨母親に報告した後、拙生は受話器を叔母に渡すのでありました。叔母は受話器を受け取ると「あら、姉ちゃん」とかなんとか云って、母親と話し始めるのでありましたが、叔母と母親は話自体は取りとめもないくせに、何時も決まって長電話をするので、拙生は先に吉岡佳世の家の方に電話をすればよかったかなと悔やむのでありました。
 矢張り何時も通りの長電話の様子に拙生は少々焦れて、叔母に聞こえないように口の中で舌打ちをして居間の方へ行くのでありました。居間では義叔父がお茶を飲みながら野球中継のテレビを見ているのでありました。
「おう秀ちゃん、どうだった、入学式は?」
 義叔父はそう云って拙生に座るように手で示した後に座卓の横の棚から湯呑を取り出して、拙生のためにお茶を入れてくれようとするのでありました。
「ああ、オイが勝手にしますけん」
 拙生はそう云って叔父の手から湯呑茶碗を受け取って、座卓の上の急須にポットから湯を注ぎこむのでありました。
「武道館へは、ちゃんと行けた?」
 拙生が茶を一口啜るのを待って義叔父が聞くのでありました。
「はい、新宿で山手線に乗り換えて高田馬場に出て、そいから地下鉄の東西線で九段下まで行ったら、後は入学式に行くらしか人の一杯居ったけん、なんとなくそれについて行ったぎんた、案外スムーズに着いたですよ」
 拙生の話し振りを聞きながら義叔父はニヤニヤと笑うのでありました。
「秀ちゃん、未だすっかり佐世保弁だな」
「ああ、まあだ佐世保弁以外ば喋る機会の殆どなかけん、仕方なかですね」
 拙生はそう云って頭を掻くのでありました。
(続)
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