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枯葉の髪飾りCLⅥ [枯葉の髪飾り 6 創作]

「まあ、体の具合は、ぼちぼちかね」
 拙生は吉岡佳世の体調がそれ程芳しくはないと云うことを、敢えてここで安田に報告することもなかろうと曖昧な云い方をするのでありました。
「ええと、そんなら、邪魔にされる前に帰ろうか」
 島田が安田を促すのでありました。
「そがん気ば遣わんでも、よかとぞ」
 拙生が云います。
「そいばってん、気ば遣わんで、後で気の利かんヤツとか云われるとも叶わんけんね」
 安田がそう云って拙生に手を上げるのでありました。
「そがんことば、オイが云うわけなかやっか」
「ま、それはいいとして、兎に角、元気でやれよ」
 安田はそう云いながら上げた手をふるのでありました。「夏休みには、博多か佐世保で会おうで。そんじゃあ、な」
 安田と島田が去るのを見送っていると、程なく吉岡佳世が駅に姿を見せるのでありました。彼女は拙生が改札口に立っているのを見つけると手をふりながら駆け寄って来ます。
「今、安田と島田が見送りに来てくれとったとぞ」
 拙生は吉岡佳世に云うのでありました。
「うん、そこのバス乗り場の処で、二人に会った」
「気ば回して、オイとお前ば二人きりにするために、早々に退散しよったばい」
「ふうん。あ、そうだ、あたし、入場券、買って来るね」
 吉岡佳世はそう云って券売所へ駆けていくのでありましたが、入場券を購入するとまた小走りで戻って来るのでありました。
「そがん焦って走りよって、大丈夫とか?」
「体の方は、大丈夫よ。元気々々。心配なし」
 彼女は息を切らせながらそう云うのでありました。「暫くの間井渕君と、これで逢えんて思うたら、少しでも、長く傍に居たいけん、つい走ってしまうと」
 吉岡佳世はそう云って拙生を嬉しがらせてくれるのでありました。後二十分もしないで列車は佐世保を離れるのであります。
 彼女は改札を入ると拙生の腕に縋るように両手を巻きつけるのでありました。もう東京行きの寝台特急さくら号は一番乗り場に入線していて、拙生と彼女は拙生に宛がわれた寝台のある車両へと身を寄せあってホームを歩くのでありました。
「あたしもこの寝台車で、東京に行きたか」
 吉岡佳世が云うのでありました。
「うん、来年の受験の時に乗れるくさ」
「そうじゃなくてさ、今からこのさくら号に乗って、井渕君と一緒に、東京に行きたいて云う意味で云うたの」
 吉岡佳世はそう云って拙生の腕を自分の体に密着させるのでありました。
(続)
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