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枯葉の髪飾りCLⅣ [枯葉の髪飾り 6 創作]

 先にも云った通り結局拙生が寝台特急さくら号に乗車するまで、吉岡佳世と外で逢って食事をしたり、病院裏の公園のベンチで春の日差しを受けて二人きりで身を寄せて話をしたり、手を繋いだり抱擁したり口づけしたりする時間は訪れなかったのでありました。彼女の体調は今一つ優れない儘に、遂に拙生が東京に出発する日を迎えたのでありました。
 拙生は前の日彼女の家を訪ねた時に、明日は態々駅まで見送りに来なくていいからと彼女に云うのでありました。
「嫌よ。あたし絶対、見送りに行くからね。井渕君の受験の時も行けんかったとやから、今度はどうしても行く」
 何時も通りに彼女の部屋でベッドの上に拙生と並んで腰かけた吉岡佳世は、顔を何度も横にふりながら云うのでありました。「体の方は大丈夫とやから。そんなに長い時間じゃないなら、外出しても、なんともないとやから」
「明日無理して、新学期の始まってから体調の崩れたいしたら、それこそ困るやなかか」
「大丈夫。絶対崩れんから」
「兎に角、今無理ばする必要はなかやっか」
「あたしが見送りに行くのが、なんか都合悪いと?」
 吉岡佳世は何時もになくそんな棘のある云い方をするのでありました。
「別に都合悪かことなんか、なあんもなかばってん」
 拙生はちょっと白けたような語調で云うのでありました。二人の間でなんとなくささくれた空気が膨らんで、お互いの体の接近を阻むのでありました。
「・・・ご免ね、聞き分けのなこと、云うて」
 吉岡佳世が拙生を上目で見ながら小さな声で云うのでありました。「井渕君があたしのことを思って、そう云うは、ちゃんと判ってるし、怒らせる気なんか、なかったと」
「別に怒っとりは、せんけど」
「本当に、怒っとらん?」
「怒っとらん」
 拙生がそう云って彼女の体を引き寄せると、二人の間で膨らんだささくれた空気がパチンと弾けるのでありました。
「今日、こんな感じで別れるとは、嫌よ」
 吉岡佳世が拙生の体に縋りつくのでありました。
「見送りに来てくれるて云う、その気持ちの芯は、オイもちゃんと判っとるくさ。ばってん、気持ちに流されて、それでまた体調の崩れたら、オイの方が申しわけなかやっか」
 吉岡佳世の腕に一瞬力が籠り、その後彼女は急に拙生から体を離すのでありました。
「ばってん、明日は見送りに、あたし行くもんね。体の方は本当に、心配ないとよ。井渕君が佐世保ば離れるその時に、あたしは家になんか居られんもん」
 吉岡佳世はそう云って、おどけて拙生に舌を出して見せるのでありました。これでなかなか強情なヤツであります。しかしながらおどけて見せる彼女の目に涙が次第に溢れてきて、一筋零れて彼女の両頬を伝い落ちるのでありました。
(続)
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