枯葉の髪飾りCⅩLⅠ [枯葉の髪飾り 5 創作]
翌日吉岡佳世を家に訪ねると、彼女は朝から微熱があると云うことで自室のベッドに横になっているのでありました。
「ありゃあ、昨日はちょっと無理させたかね」
拙生は傍らの彼女の勉強机から丸い座布団が乗った椅子をベッド傍へ引き寄せて、それへ腰を落としながら云うのでありました。
「ううん、昨日のせいで、熱が出たのやないと思うよ。でも、ちょっと疲れはしたけど」
彼女は枕に乗せた頭を拙生の方へ向けて云うのでありました。
「まあだ、あんだけ動くとは、無理やったばいね」
「熱が出たて云っても、そがん大した熱やないし、起きていようと思えば、起きていられるとよ、本当に。お母さんが、寝とかんばて云わすから」
拙生は昨日、彼女の体調を考えずに街を歩きまわったことを後悔するのでありましたが、拙生のそんな思いを察して吉岡佳世も昨日の今日、自分が熱を出してしまったことを申しわけなく思っていると云った顔をするのでありました。
「病院には行かんでよかとか?」
「うん、そがん大したことじゃないけん」
吉岡佳世はそう云った後、拙生の顔を見つめて下唇を噛むのでありました。「井渕君、本当に大したことじゃないからね。ただ用心のため、寝てるだけよ。だから、また近い内に二人で、公園でデートしようね」
「うん、そう云うことなら」
拙生は頷くのでありましたが、外での二人のデートが彼女の体に障るようなら控えた方が無難かなと頭の中では考えているのでありました。
「ねえ、井渕君」
吉岡佳世はそう云って掛け布団から掌を出して、拙生においでおいでのような仕草をするのでありましたが、促されるまま拙生は彼女に顔を近づけるのでありました。「昨日はさ、あたし初めてのチューしたから、お母さんやお父さんと、顔をあわせるのが、ちょっときまりが悪くて、そいで大したことでもないのに、こうして部屋に閉じ籠もってるとよ。体の調子もそうやけど、本当は、そっちが主な理由」
そう云って吉岡佳世は意味ありげな笑いをするのでありました。また彼女は「初めてのチュー」と云う時に態々唇を尖らせて見せながらそう云うのでありました。拙生は彼女に近づけていた顔を少し離して頭を掻くのでありました。拙生の頭の中に昨日の「初めてのチュー」をした時の、目を閉じた彼女の顔が蘇るのでありました。あの時彼女は口なんか尖らせてはいなかったはずだがと拙生は思うのでありました。
「あんなことしたけん、熱の出たとやろうか? そう云えば胸苦しかて云いよったもんね」
拙生はそう云って頭を掻く手のピッチを上げるのでありました。なんとなく吉岡佳世の顔を見るのが照れ臭くなって、拙生は彼女の机の上にある拙生が東京土産に買ってきた写真立ての方を向くのでありました。銀杏の木をバックに真面目くさった顔をした写真の拙生が、頭を掻いている拙生を睨んでいるのでありました。
(続)
「ありゃあ、昨日はちょっと無理させたかね」
拙生は傍らの彼女の勉強机から丸い座布団が乗った椅子をベッド傍へ引き寄せて、それへ腰を落としながら云うのでありました。
「ううん、昨日のせいで、熱が出たのやないと思うよ。でも、ちょっと疲れはしたけど」
彼女は枕に乗せた頭を拙生の方へ向けて云うのでありました。
「まあだ、あんだけ動くとは、無理やったばいね」
「熱が出たて云っても、そがん大した熱やないし、起きていようと思えば、起きていられるとよ、本当に。お母さんが、寝とかんばて云わすから」
拙生は昨日、彼女の体調を考えずに街を歩きまわったことを後悔するのでありましたが、拙生のそんな思いを察して吉岡佳世も昨日の今日、自分が熱を出してしまったことを申しわけなく思っていると云った顔をするのでありました。
「病院には行かんでよかとか?」
「うん、そがん大したことじゃないけん」
吉岡佳世はそう云った後、拙生の顔を見つめて下唇を噛むのでありました。「井渕君、本当に大したことじゃないからね。ただ用心のため、寝てるだけよ。だから、また近い内に二人で、公園でデートしようね」
「うん、そう云うことなら」
拙生は頷くのでありましたが、外での二人のデートが彼女の体に障るようなら控えた方が無難かなと頭の中では考えているのでありました。
「ねえ、井渕君」
吉岡佳世はそう云って掛け布団から掌を出して、拙生においでおいでのような仕草をするのでありましたが、促されるまま拙生は彼女に顔を近づけるのでありました。「昨日はさ、あたし初めてのチューしたから、お母さんやお父さんと、顔をあわせるのが、ちょっときまりが悪くて、そいで大したことでもないのに、こうして部屋に閉じ籠もってるとよ。体の調子もそうやけど、本当は、そっちが主な理由」
そう云って吉岡佳世は意味ありげな笑いをするのでありました。また彼女は「初めてのチュー」と云う時に態々唇を尖らせて見せながらそう云うのでありました。拙生は彼女に近づけていた顔を少し離して頭を掻くのでありました。拙生の頭の中に昨日の「初めてのチュー」をした時の、目を閉じた彼女の顔が蘇るのでありました。あの時彼女は口なんか尖らせてはいなかったはずだがと拙生は思うのでありました。
「あんなことしたけん、熱の出たとやろうか? そう云えば胸苦しかて云いよったもんね」
拙生はそう云って頭を掻く手のピッチを上げるのでありました。なんとなく吉岡佳世の顔を見るのが照れ臭くなって、拙生は彼女の机の上にある拙生が東京土産に買ってきた写真立ての方を向くのでありました。銀杏の木をバックに真面目くさった顔をした写真の拙生が、頭を掻いている拙生を睨んでいるのでありました。
(続)
明けましてオメデトウございます!昨年は大変お世話になりました。
本年度も宜しくお願い致します。
by shin (2010-01-01 02:14)
shinさん
明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願いいたします。
by 汎武 (2010-01-02 09:13)