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枯葉の髪飾りCⅩⅩⅩⅦ [枯葉の髪飾り 5 創作]

「入院してから、ずうっと食べたかったと、マカロニグラタンが」
 吉岡佳世がコップの水を一口飲んでから云います。「それまでは、特別好きて云うとでもなかったけど、病院に入ってから、なんか急に思いついて、食べたくなったと。なんでか判らんけどさ」
 確かに拙生が注文したトルコライスが早く来て、その後暫く経ってもマカロニグラタンが運ばれてくる気配がないのでありました。
「井渕君、先に食べてよかよ、冷めるから」
 吉岡佳世が気を遣うのでありました。
「そうや、そんなら、ぼちぼち食べよろうかね。その内グラタンも来るやろう」
 拙生がゆっくり料理の半分程を食べ終えた頃、ようやく吉岡佳世の注文したマカロニグラタンが運ばれて来るのでありました。吉岡佳世は礼儀正しく両手を合わせて頂きますと云ってからスプーンを取り上げるのでありました。
「井渕君、食べると、早いね」
 吉岡佳世が一口目を口に入れる前に云うのでありました。
「そうね、育ち盛りけんがね。て云うても、身長は最近さっぱり伸びんばってん」
「羨ましくなるような、食べっぷり」
「がつがつしとって品のなかかね、これじゃ」
「ううん、見てるだけで、なんかこっちまで気持ちのよくなる。あたしはのろのろ食べるけん、何時もお母さんに急かされるとよ」
 本人がそう云うだけあって、拙生が食べ終わっても彼女のグラタンは未だ三分の一も減っていないのでありました。
「なんか四六時中腹の減っとるし、幾ら食うても、いっちょん腹一杯にならんけん、自分では困るとぞ。傍で見とったら気持ちよかかも知れんばってん」
 拙生が云います。「大食いて云うとも、これで実際、不便かもんぞ」
「そう云えば夏に海に云った時も、あたしの作って来たお弁当、井渕君あっと云う間に殆ど、食べてくれたよね」
「ああ、あの弁当は美味かった。半分お母さんに手伝うて貰うて、作ったとやろうばってん」
「違うて」
 吉岡佳世はスプーンを持つ手の動きを止めて断言するのでありました。「あたしが殆ど作ったと。味付けも盛り付けも、色あいも考えて。そう云うたやろう、前に」
「ああ、そうやった、そうやった。そう云うことになっとるとやった」
「あ、全然信用しとらん口ぶり」
「いや、信用しとるて」
 拙生は水を飲みなが云うのでありました。「信用しとるけん、今年の夏にまた海に二人で云く時、あの弁当ば食わせてくれ。楽しみにしとるけん」
 拙生がそう云うと彼女は自信満々の顔をして何度か首を縦にふるのでありました。
(続)
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