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枯葉の髪飾りCⅩⅩⅩⅤ [枯葉の髪飾り 5 創作]

「オイとこの犬が兄弟てか?」
「そう。それって心外?」
「まあ、お前の指が好いとるて云うところはよう似とるかも知れんけど、顔は全然似とらんと思うぞ。そいにオイはこがん毛むくじゃらじゃなかし、耳も立っとらん。第一オイには尻尾はなかもんね。それからコイツんごと裸でうろうろもせん」
「そりゃそうやけどさ。でも、なんか似てるような気が、段々してきたよ」
 吉岡佳世はそう云って拙生の顔をまじまじと見るのでありました。
「そがんやって、オイとこの犬ば見比べるな」
「あ、そうだ、お父さんに強請って、この犬ウチで飼おうかな」
 吉岡佳世はケージに吊るされた犬の値段票を見るのでありました。「この犬、井渕君の代わり」
「オイの代わりか」
 拙生は少し複雑な気持ちになるのでありました。「コイツ、オイの代わり、出来るとや?」
 拙生は自分が案外安く見積もられたような気がして、口を尖らせるのでありました。
「勿論、本当にこの犬が、井渕君の代わりに、なるわけはないとやけど、でも、ちょっとあたしは、寂しくなくなるかも知れんから」
「ああ、そうね。お前が寂しくなくなるとなら、まあ、仕方なかか」
 拙生はあっさりと仔犬と同じ位相に並ぶのでありました。まあ、彼女の寂しさがこの仔犬を飼うことで少しでも解消されると云うのならば、拙生はこの仔犬と義兄弟の契りを結ぶこと、吝かではないのであります。
「おい君、あたしが買いに来るまで、誰にも連れていかれたらダメよ」
 吉岡佳世は犬に向かってそう命じるのでありました。仔犬はまるで彼女の言葉を理解したように、ぴょんぴょんと跳ねてから尻尾を今まで以上に激しく振って、小さな声でワンと返事をするのでありました。
「ほんじゃあな、兄弟」
 拙生は仔犬のケージを離れる時にそう云って手を上げるのでありました。只、この犬が吉岡佳世に引き取られた後彼女によって拙生と同じ名前をつけられるとしたら、これは勘弁願いたい事態であると思うのでありました。そんなことになれば、もし拙生がこの先この犬を呼ぶ時にまごつくではありませんか。
 三ヶ町のアーケードが途切れた処に玉屋と云うデパートがあるのでありました。一昨日吉岡佳世はここまでの距離を退院以来歩いたと云うことでありました。ここから前に在る島ノ瀬公園を横切って大通りのバス停からバスに乗って帰ったと云うことであります。
「ああそうだ、御飯食べたら、後で玉屋に寄らん?」
 吉岡佳世が拙生に提案するのでありました。
「別によかけけど、なんか買う物のあるとか?」
「うん、ちょっとね」
 吉岡佳世はそう云って意味あり気な顔をして見せるのでありました。
(続)
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