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枯葉の髪飾りCⅩⅩⅩⅢ [枯葉の髪飾り 5 創作]

 拙生と吉岡佳世は公園を出ると、市民病院の棟を横目にして大通りを手を繋いでゆっくり歩くのでありました。佐世保橋を渡って暫く行くと三ヶ町アーケードの入り口であります。拙生と吉岡佳世は三ヶ町アーケードへ折れて、月曜日でそんなに人通りの多くない商店街を、繋いだ儘の手を世間に大胆に晒していることに照れながら歩を進めるのでありました。
「体のきつうなかか?」
 拙生は横の彼女に時々聞くのでありました。
「大丈夫、なあんも、心配ないって」
 吉岡佳世はその都度拙生の目をその大きな瞳で見ながら云って、その後拙生の心配が杞憂であることを知らせるためにか、屈託なさそうに笑って見せるのでありました。
「もしもぞ、ちょっとでもきつかったら、すぐに知らせんばぞ」
「判った。でも本当に大丈夫とよ。気分爽快やもん」
 彼女はそう云った後に、あっと声を出して道端にやや進む方向を曲げるのでありました。拙生と彼女の繋いだ手が少し伸びて、彼女の手に引っ張られるように拙生も彼女の進む方向へ足の向きを変えます。彼女はペットショップを見つけてそこへ立ち寄るのでありました。
 店の入り口にはケージに入れられた仔犬が寝そべっているのでありますが、彼女の接近を察して立ち上がると尻尾を忙しなく振るのでありました。茶色の柴犬でありましょうか。仔犬はケージの中で小躍りしながら、差し入れられた彼女の人差し指を舐めたり甘噛みしたりして、歓迎の意を示しています。
「可愛かね、この犬」
 吉岡佳世が差し入れた指を動かして仔犬をじゃらしながら云います。「この前病院の帰りに久しぶりにここば歩いた時、この仔犬が目についたと。他にも何人かこの仔犬ば見よらしたけど、この犬さ、どう云う積りか、あたしの顔をじいっと見てると。その目のあんまり可愛かけん、あたし今してるように指ば近づけたとさ。そうしたら、嬉しそうに、あたしの指で一生懸命遊ぶの。他の人が指ば近づけても、そっちには見向きもせんで、あたしの指にばっかり構うの。なんか、いじらしくなってさ」
 吉岡佳世はそんなことを云いながら仔犬と指で遊ぶのでありました。
「オイも、この指以外とは遊びとうなかばってんね」
 拙生はそう云って繋いでいる彼女の手を上に挙げて見せるのでありました。「これでなかなかオイも、いじらしかやろう」
 拙生のおふざけに吉岡佳世は照れたように笑って拙生が挙げた自分の手を見て、その指に力を入れるのでありました。
「でもさ、井渕君、東京に行ったら、あっちには綺麗な女の人とか、一杯おらすやろうけん、目移りするとやろうね、きっと。あたしとは、遠くに離れてしまうし」
 そう云って仔犬を見る彼女の表情がひどく寂しそうな色をしているのでありました。拙生は彼女以上に指に力を入れて、彼女の手を固く握り締めるのでありました。
(続)
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