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枯葉の髪飾りCⅩⅩⅢ [枯葉の髪飾り 5 創作]

「いや、そうじゃなくて、なんて云うか、ものの弾みで、お雛様とか雪洞とかオイが口走っただけで、話の内容とはなんの関係もなかとです」
 拙生は頭をか掻きながら説明するのでありました。
「ふうん」
 彼女のお母さんはなんとなく未だ解せないと云った顔つきのまま、口を突き出しながらそう云うのでありました。「まあ、それはそうと、井渕君も四月から大学生たいね」
「はい。なんとか大学生に成れるごたるです」
「井渕君、髪の毛は伸ばすと?」
 吉岡佳世が聞くのでありました。
「いやあ、長髪にするぎんた色々面倒臭かごたるけん、多分これ以上は伸ばさんやろう。床屋代の浮くとは少し魅力やけど。その代わり、銭湯で洗髪料ば取られるて聞いたこともあるけど」
「髪の毛はあんまい伸ばさん方がよかよ。どがん美男子でも不潔に見えるけん」
 彼女のお母さんがそんなアドバイスをしてくれるのでありました。
「でも長髪の井渕君も、見てみたい気のする。案外恰好良かかも知れんしさ」
「オイの髪の毛は癖毛けん、長うしたら纏まらんやろう」
「パーマかければよかたい」
「パーマなんかしたらだめよ、男が」
 彼女のお母さんがすかさず吉岡佳世の意見に反論するのでありました。「男が髪の毛なんかに気ば遣い出したら、勉強の方が疎かになるたい。そがんことにお金ばかけるより、本でも買うた方が学生らしかよ」
 彼女のお母さんの意見は確かに正論ではあるかと拙生は思うのでありました。
「元々、オイは土台が悪かとやけんが、髪の毛ばどがん弄っても、そがん大して変わり映えせんやろうて思うですよ、自分でも」
「そがんことはなかよ。井渕君は結構美男子の方て思うよ」
 拙生の自己分析に対して彼女のお母さんがそう元気づけてくれるのでありました。
「あたしも、井渕君は美男子て思う」
 吉岡佳世までがそんなことを云うのでありました。拙生はどう云う反応をしていいのか判らずに俯いて頭を忙しなく掻き毟るのでありました。
「ああそうそう、もう用も済んだけん、オイはこれで帰ろうかね」
「明日も来てくれるやろう?」
 吉岡佳世が聞きます。
「うん、来てもよかなら」
「佳世もなかなか外に出られんで寂しかやろうけん、話し相手に来ておくれ井渕君」
 彼女のお母さんにもそう乞われて、拙生は明日の訪問の意味を得た思いがするのでありました。あんまり頻繁に家に押しかけるのも図々しいかと少し躊躇するところもあったのでありますが、そんな拙生にとって実に有難いお母さんの言葉でありました。
(続)
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