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枯葉の髪飾りCⅩⅧ [枯葉の髪飾り 4 創作]

 吉岡佳世はまたベッド脇の台の引き出しを探り、拙生が渡した万年筆のスペアインクも返してくれるのでありました。スペアインクは全く減っておらず、寧ろ一箱分多く返ってきたのでありました。
「井渕君が持って来たインクは使わんかったの。インクまで借りたら悪いけん。だからお母さんに頼んで、二箱買ってきてもらったと。一箱はその残り」
 吉岡佳世はそう事情説明するのでありました。
「それから、これ」
 吉岡佳世はそう云いながら、やはり引き出しから三冊のノートを取り出すのでありました。「これがあたしの、おまじないノート」
 彼女は三冊のノートをひらひらと振って見せます。
「お、ちょっと見せてくれ」
 拙生がそのノートを受け取ろうとすると彼女は胸に抱えこんで、拙生の手からノートを庇うのでありました。
「ダメ。あたしの字、汚いもん。それにまだ結果の発表前やから、今見せてしてしまうと、威力の落ちるかも知れんもん」
 ああ成程と思って拙生は出した手を引くのでありました。夫々のノートの表紙には拙生が受験した大学の名前が大書してあるのでありましたが、それだけはちらと見えたのでありました。そのノートの中に「合格」と云う文字がびっしりと書きこんであるはずであります。吉岡佳世の労を思うと拙生は頭を深々と下げなければなりません。
「ほんじゃあ、合否のはっきりしたぎんた、見せて貰おう」
「なんか、ちょっと恥ずかしい感じのする、改まって井渕君に、見せてて云われると」
 吉岡佳世はそう云いながらノートを余計庇うように胸に抱き締めるのでありました。「それに、もしもよ、もしも井渕君がどこも不合格やったら、申しわけない気もするし」
「大丈夫さ。井渕君は絶対何処かに受かっとるさ」
 彼女のお母さんがうけあってくれるのでありましたが、さてどうなることやら。
「そがん、胸にノートとか圧しつけても、もう痛うはなかとや?」
 拙生は吉岡佳世に聞くのでありました。
「うん、こんくらいは全然大丈夫。もう傷の痛みは、殆ど感じないけん。でも、大きな傷跡は、はっきり残ってるとけどね」
 吉岡佳世のその言葉に彼女のお母さんが悲しそうな顔をするのでありました。拙生としても急に彼女が気の毒になって、受けて返す言葉に窮するのでありました。
「あ、そうだ、井渕君、傷跡、見る?」
 自分の言葉によって雰囲気が少し重苦しくなったのを嫌って、吉岡佳世がそんなことをおどけた口調で拙生に云うのでありました。
「いやあ、それは・・・。そがんことは・・・」
 拙生はどぎまぎとして言葉を縺れさすのでありました。拙生の顔が赤くなったのを見て吉岡佳世が悪戯っぽく笑ってみせます。
(続)
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