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枯葉の髪飾りCⅤ [枯葉の髪飾り 4 創作]

「それから・・・」
 吉岡佳世はそう云いながら腰をずらして、枕の下から一枚の写真を取り出すのでありました。「これは、肺炎の治まった後からずっと、枕の下に入れておいて、夜寝る前にさ、井渕君が受験に合格しますようにて、そうお祈りしてから寝るようにしてたと。これも仕様もないおまじないでしかないけどさ、あたしの願いがこめられている写真やから、もしよかったら、東京まで一緒に連れて行って貰えたら、嬉しかと」
 彼女の差し出した写真は以前病院裏の公園で撮った、彼女と拙生が顔を寄せて納まっているものでありました。枕の下で彼女の頭を支え続けていたためにそれはかなり波打っているのでありました。吉岡佳世はその写真を両手で挿んで力を加えて、真直ぐに伸ばそうとするのでありましたが容易には荒波は収まらないのでありました。
「判った、有難う。絶対に持って行く。なんかグッと来るばい、こがんことして貰うと。それにお前ば一緒に東京に連れて行くごたる気のして、嬉しゅうなってくる」
 拙生は彼女の差し出した写真を受け取ると、先程万年筆を取り出した制服の内ポケットに大切に仕舞うのでありました。写真は受験が終わるまで、そこにずっと入れておく積りであります。
「なんかあたし、詰まらんことばっかり、してるように思うやろう?」
「そがんことはなか。色々心配してくれて有難か」
 実は拙生は今年受験に失敗しても、そうなると来年彼女と一緒に受験で東京に行くことが出来るかも知れないし、どちらかと云うとその方がいいか、などと不届きなことを考えたりしたこともあったのでありますが、ここまで吉岡佳世に拙生の入試合格を期されると、こりゃあなんとしても今年大学に入らねば収まらんぞと、神妙に了見を改めたりなどするのでありました。
「井渕君さ、受験、本当に頑張ってね」
「うん、頑張るけんね」
 拙生はそう云って立ち上ると吉岡佳世の手を握るのでありました。
 そこへ丁度彼女のお母さんが買い物から帰って来るのでありました。拙生は慌てて彼女の手を離すのでありました。
「おお寒。外は随分寒か風の吹きよるよ」
 彼女のお母さんは大きな紙袋を二つ抱えて来て、そう云いながらそれをベッド脇に下ろすのでありました。「四ヶ町まで行って来たら、体の冷えて仕舞うた」
「何買って来たと、お母さん?」
「今晩のお父さんのおかずとか、あんたのパジャマの換えとかたい」
 彼女のお母さんは、ああそうそうなどと云いながら紙袋の一つからアーモンド入りのチョコレートの箱を取り出して拙生に渡すのでありました。
「ああ、済みません」
「いつも井渕君が来てくれると買い物に出られるけん、助かる」
 彼女のお母さんは買い物に出ると必ず拙生になにか買ってきてくれるのでありました。
(続)
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