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枯葉の髪飾りCⅡ [枯葉の髪飾り 4 創作]

 明日の夕刻にいよいよ入試のため東京に向けて出発すると云う日、拙生は少しでも彼女の容態が好転していてくれることを祈りながら、学校帰りに病院へと向かったのでありました。この後二週間程彼女の傍から離れるのでありますし、せめて少しは元気な顔で拙生を送別して貰えたらと云う願いがあったのであります。そうでないと拙生の受験にも障りがあるではありませんか。いや今頃そんなことを云うのは、元々いい加減な受験生であった拙生のこの一年を棚に上げる弁解でしかないでしょうけれど。
 恐る恐る病室のドアを開けて中を覗くと、吉岡佳世はベッドの上に座っているのでありました。お、起き上がっているぞと拙生は喜ぶのでありました。
「今日は、少しは調子の良かとかね?」
 拙生は窓際にある彼女のベッドまで近づいて、つき添っている彼女のお母さんに頭を下げて、吉岡佳世には挨拶代わりに手を挙げて見せながら笑いかけるのでありました。
「うん、熱も朝から上がってないし、なんとなく気分もすっきりしてる」
 吉岡佳世はそう云って拙生に笑いかけます。
「今日は、血色もよかごと見えるばい」
「食事も、いつもよりも摂れとるし、気分の良かせいで、今日はずっとこうして起きとるとよ」
 彼女のお母さんがそう彼女の今日の様子を報告してくれるのでありました。
「やっと安定して、恢復し始めたとばいね、ちょっと遅うはなったけど」
 拙生は嬉しくなって、そう云う自分の声の調子が少し高くなっているのを自分でも不自然に思うのでありました。
「まだ判らんけど、そうなら本当に良かとばってん」
 彼女のお母さんはベッドに座っている彼女を見ながら云うのでありました。
「屹度そうに違いなかですよ」
 拙生は調子よく受けあうのでありました。
「そんなら、井渕君の居る内にちょっと、あたしは買い物とか用足しに行ってこようかね」
 いつものように彼女のお母さんはこの場を外すために、そう云ってベッド横の丸椅子から立ち上がるのでありました。拙生が来ればいつも、彼女のお母さんは拙生と吉岡佳世を二人きりにしてくれようとします。勿論本当にその日の夕食の買い物とか必要な用事のために、病院からほど近い所にあるスーパーマーケット等へ出かけて行くには、拙生の来訪は好都合でもあったでしょうし、吉岡佳世に朝からずっとつき添っているお母さんにとって、そう云う外出はちょっとした気分転換にもなっていたのでありましょう。
「ああ判りました。帰ってこらすまで、オイはここに居りますけん」
 拙生はその言葉の後にどうぞごゆっくりと云い足すのは、なにやらお母さんを邪魔者扱いにしているように聞こえるかも知れないと思って云い控えるのでありました。いつもそこで拙生は、その言葉を口に出しても良いものかどうか迷うのでありました。
「そんなら井渕君、ちょっと買い物してくるけん、宜しくね」
 彼女のお母さんは拙生にそう云い残して病室を出て行くのでありました。
(続)
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