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枯葉の髪飾りⅩCⅡ [枯葉の髪飾り 4 創作]

 彼女が髪を後ろに纏めると、耳から顎にかけての緩やかな線とほの白く細い首が露わになるのでありました。吉岡佳世の首はこんなに細かったかしらと、拙生は彼女の首に視線を当てながら思うのでありました。入院したために少しやつれたのでありましょうか。いやまさかたった四日間でそんなこともないでありましょう。考えてみれば今まで拙生は彼女の首をしげしげと眺めたことはないのでありますから、その時改めて見た彼女の首の細さが妙に目についただけでありましょう。
「明日は、いよいよ手術か」
 拙生は努めて軽い口調でそう云うのでありました。「明後日になったらその体も、どこも悪かところがなくなっとるて思うぎんた、ちょっと嬉しゅうなってくるね」
「そうね、そうなればいいけどね」
 吉岡佳世が後ろへ纏めた髪から手を離して心細そうに笑うのでありました。彼女の髪がさらさらとまた元のように戻ります。
「おいおい、そがん頼りなか顔しとったら、だめばい」
 拙生は笑いながら彼女を窘めるのであります。「絶対克服してやる、て云う気持ちが大事て思うぞ。手術は間違いなく大丈夫やろうから、後は強か気持ちぞ」
 拙生はそう云った後頭を掻くのでありました。「ちょっと云い方の、偉そうに聞こえるかね、こがん風に云うぎんた。そがん積もりはなかとやけど」
「ううん、井渕君の云う通りて思うけどさ」
 吉岡佳世は真顔で頷くのでありましたが、まあ、拙生の言葉は、実のところ本人ならぬ身の無責任な言葉でしかないのであろうなあと拙生自身が思うのでありました。他人の激励とか云うものは、結局その程度の重さ(いや、軽さと云うべきでありましょうか)をしか持ち得ないものなのでありましょう。云い募るだけ、場合によっては当人を不快にさせるのかも知れません。黙っているに如くはないのかも知れませんが、そうなるとなんとしても激励したいと云う一方にある本心をどう始末すれば良いのでありましょう。
「どうしたと、あたしの髪に、なんかついてる?」
 拙生が彼女の長い髪の毛に視線を釘づけたまま黙りこんだのを不審に思ってか、吉岡佳世はその大きな瞳で拙生を見つめながら問うのでありました。
「ああ、いや、別に」
 拙生はどぎまぎとしてそう云います。「まあ、その、オイが手術ば受けるわけでもなかとに、ちょっと無責任に、軽々しい励ましば云うたかねて思うて、反省しとったと」
「ううん、そんなことないとよ。井渕君に励まされるの、あたし好きよ。力の出るもん」
「そうやろうか」
 拙生は頭を掻くのでありました。「そんなら、お言葉に甘えて、もう少し励まそうかね」
「うん、励まして」
「こがん云い方は、傲慢に聞こえるかも知れんばってん、頼むけん、オイの為にも手術ば乗り切って、元気な体になれよ、屹度」
 拙生はそう云って、照れて、また頭を掻き毟るのでありました。
(続)
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