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枯葉の髪飾りLⅩⅩⅩⅨ [枯葉の髪飾り 3 創作]

「ああ、一緒に帰る」
 拙生は云うのでありました。「そんなら、オイもこいで帰るけんね。手術の前に一度病院に、顔ば見に行くとは大丈夫やろうか?」
 と、これは吉岡佳世に聞くのでありました。
「うん、面会時間は午後三時からになるけど、明後日の四日以降は大丈夫て思う。検査とかも午前中には終わってるやろうし」
「判った。そしたら四日に顔ば見に行こうかね」
「うん、待ってる」
「島田、一緒に行くか?」
 拙生は島田の方を向いて云うのでありました。
「ううん、あたしは遠慮しとく。手術の終わってからお見舞いに行くけん」
「そうしたら、手術が七日の予定けん、十日には普通の病室に戻っとるて思うよ」
 吉岡佳世のお母さんが島田に日程の説明するのでありました。
「そんならあたしは、その週の土曜日にお見舞いに行こうかね。ええと、十二日の土曜日」
「十二日なら佳世はもう確実に、普通の病室に戻ってるやろうね」
「いずれにしても行く前に電話で確認させてもらって、それから伺いますから」
 島田はそんなそつのないことを云うのでありました。
「ほんじゃ、明後日病院に行くけん」
 拙生は吉岡佳世にそう告げて片手を挙げるのでありました。
 吉岡佳世と彼女のお母さんに見送られて玄関を出た拙生と島田は、数メートル歩いて一度家の方を振り返り、まだ吉岡佳世と彼女のお母さんが玄関を出た所で此方を見送っている姿に、再度のお辞儀と挙手で別れを告げてバス停に向かうのでありました。
「井渕君、まだ佳世と一緒に居たかったとやなかと?」
 島田が聞くのでありました。
「長居して無神経て思われるとも嫌けん、帰るにはちょうど良かタイミングやった」
「なんかさ・・・」
 島田が云います。「なんか、今日の佳世ば見とったら、可哀相になってきた」
「可哀相?」
「うん。大変な病気ば抱えて、大変な手術ば数日後に控えていて、それでもあたしとか井渕君に気ば遣わせまいてして、健気にしとってさ。今までもそうやったけど」
「ばってん色紙ば渡された時は、吉岡もつい涙ば見せてしもうたな」
「そうね、佳世の涙ば見たら急に、あたしまで涙のこみ上げてきたもん」
 島田はその時の感情が蘇ったためか涙声になっているのでありました。
「ま、手術は間違いなくうまくいくし、元気になって帰ってきて、今年のクリスマスはまた吉岡の家でオイと島田と隅田と安田で、クリスマスパーティーばすることになるくさ」
「そうね、四月からは皆バラバラになるばってん、でもそうなるよね、屹度」
 島田は涙を手の甲で拭って、拙生に笑いかけるのでありました。
(続)
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