枯葉の髪飾りLⅩⅩⅩⅦ [枯葉の髪飾り 3 創作]
吉岡佳世の家の居間で彼女とお母さんと他愛もない話などしながらお茶をよばれていると、来客を知らせる玄関のチャイムが鳴るのでありました。彼女のお母さんがそそくさと居間から出ていきます。玄関の方から新年の挨拶をする聞き慣れた声が聞こえてきたと思っていたら、彼女のお母さんに伴われて居間に入ってきたのは島田でありました。
「あら、やっぱり井渕君も来とったばいね」
島田はそう云いながら吉岡佳世の横に座るのでありました。
「おう、今日はなんしに来たとか?」
拙生は島田に問います。
「クラスの女子で佳世に激励の寄せ書きば作ったけん、持って来たとさ」
島田はそう云って抱えてきた紙袋から色紙を二枚取り出すのでありました。
「へえ、激励の寄せ書きか。成程ねえ」
拙生は感心するのでありました。そういったことは男連中ときたらまるで気が回らないのでありますが、女子は結構小まめに色々な企画を立てるもののようであります。
「女子全員て云うわけじゃなかとけど、回れるところは回って書いて貰ってきたと」
島田は炬燵の上に二枚の色紙を並べて吉岡佳世の方へそっと押し遣るのでありました。
「嬉しい。有難う」
吉岡佳世は自分の前の色紙に目を落とすのでありました。色紙には色取りどりのペンで、縦横斜めに賑やかに文字やら絵やらが散りばめられているのでありました。
吉岡佳世はクラスの女子の中ではさして目立つ存在ではなく、親しい女友達も居なかったようでありました。それは多分彼女が学校を休みがちであったためでありましょう。島田にしても体育祭の時から急に親しく口をきく間柄となったのであり、それ以前はそんなに頻繁に言葉を交わしあうような存在でもなかったと思われます。
しかしここに来て一緒に吉岡佳世の家でクリスマスを楽しむ程の間柄となった島田は、そんな目立つ存在でもない吉岡佳世のために色紙の贈呈を画策し、その色紙を埋める多くの言葉集めに奔走して、彼女をなんとか激励しようと努めているのでありました。大体が面倒見の良い性格ではあるのでしょうが、そんな島田と親しくなれて吉岡佳世は幸運であったと拙生は思うのでありました。島田に拙生の方からも礼を云いたい心境でありましたが、しかしそれは僭越と云うものであり、弁えのない行為は拙生の品位を傷つけることにしかならないであろうと考えて控えるのでありました。まあ尤も拙生如きが、そんな大それた品位は端から持ちあわせてなどいなかったのではありましたが。
「この寄せ書きと、井渕くんに貰ったお守りとお神籤は、絶対病院に持って行って、枕元に置いとく。どうも有難う、こんなにしてくれて」
吉岡佳世は涙ぐむのでありました。拙生までグッときてしまいます。島田も吉岡佳世の涙声につられて、引き結んだ唇の端を小刻みに動かしているのでありました。
「皆さんにこがんようして貰うて、あたしからもお礼ば云います」
吉岡佳世のお母さんが、やはり彼女と同様に目尻に涙を溜めて、その涙を人差し指の腹で拭って拙生と島田に頭を下げるのでありました。
(続)
「あら、やっぱり井渕君も来とったばいね」
島田はそう云いながら吉岡佳世の横に座るのでありました。
「おう、今日はなんしに来たとか?」
拙生は島田に問います。
「クラスの女子で佳世に激励の寄せ書きば作ったけん、持って来たとさ」
島田はそう云って抱えてきた紙袋から色紙を二枚取り出すのでありました。
「へえ、激励の寄せ書きか。成程ねえ」
拙生は感心するのでありました。そういったことは男連中ときたらまるで気が回らないのでありますが、女子は結構小まめに色々な企画を立てるもののようであります。
「女子全員て云うわけじゃなかとけど、回れるところは回って書いて貰ってきたと」
島田は炬燵の上に二枚の色紙を並べて吉岡佳世の方へそっと押し遣るのでありました。
「嬉しい。有難う」
吉岡佳世は自分の前の色紙に目を落とすのでありました。色紙には色取りどりのペンで、縦横斜めに賑やかに文字やら絵やらが散りばめられているのでありました。
吉岡佳世はクラスの女子の中ではさして目立つ存在ではなく、親しい女友達も居なかったようでありました。それは多分彼女が学校を休みがちであったためでありましょう。島田にしても体育祭の時から急に親しく口をきく間柄となったのであり、それ以前はそんなに頻繁に言葉を交わしあうような存在でもなかったと思われます。
しかしここに来て一緒に吉岡佳世の家でクリスマスを楽しむ程の間柄となった島田は、そんな目立つ存在でもない吉岡佳世のために色紙の贈呈を画策し、その色紙を埋める多くの言葉集めに奔走して、彼女をなんとか激励しようと努めているのでありました。大体が面倒見の良い性格ではあるのでしょうが、そんな島田と親しくなれて吉岡佳世は幸運であったと拙生は思うのでありました。島田に拙生の方からも礼を云いたい心境でありましたが、しかしそれは僭越と云うものであり、弁えのない行為は拙生の品位を傷つけることにしかならないであろうと考えて控えるのでありました。まあ尤も拙生如きが、そんな大それた品位は端から持ちあわせてなどいなかったのではありましたが。
「この寄せ書きと、井渕くんに貰ったお守りとお神籤は、絶対病院に持って行って、枕元に置いとく。どうも有難う、こんなにしてくれて」
吉岡佳世は涙ぐむのでありました。拙生までグッときてしまいます。島田も吉岡佳世の涙声につられて、引き結んだ唇の端を小刻みに動かしているのでありました。
「皆さんにこがんようして貰うて、あたしからもお礼ば云います」
吉岡佳世のお母さんが、やはり彼女と同様に目尻に涙を溜めて、その涙を人差し指の腹で拭って拙生と島田に頭を下げるのでありました。
(続)
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