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バリ島とコーヒーⅡ [散歩、旅行など 雑文]

 滞在の殆どをホテルのプールサイドやビーチで寝そべって過ごしたのでありましたが、あい間に観光地巡りに駆り出されるのはツアー旅行のお決まりであります。ものぐさの国からものぐさ教を布教しに来たような拙生としては、実に以って面倒臭がったのでありますが、連れがホテル生活のダラダラに倦んでいそいそと観光に出かけるものだから、拙生としては不承々々につきあうのでありました。
 それでも芸術家村と云われるウブドでは画家達のバリ伝統の手法やその色使いにほうと唸り、金銀細工のチュルクと云う村では今現在も愛用するペーパーナイフを購入してみたり、バリ木彫りの本場たるマスではお土産の木彫りのお面の値段がやけに高いではないかと店の人に食い下がったり、なかなか拙生なりに観光地巡りを楽しむのでありました。ベドゥルでは象の洞窟の彫刻に見入り、タンパクシリンでは元大統領のスカルノが建てたと云う宮殿をなかなか豪勢なことをするものと腕組みして見上げ、キンタマーニ高原ではその深みのある美しい眺望に見とれ、移動途中の田園風景が昔の日本の農村風景に似ているでしょう等とガイド氏に云われると、しかし扶桑の田園にヤシの木など大概ないであろうと彼の人にニコニコ笑いながらケチをつけたり、拙生、すっかりものぐさ教の布教を忘れてなかなかにはしゃいでおります。それにまだまだ、ガムランの調べとバロンダンス、夜間に篝火の中で見た迫力あるケチャックダンスには我を忘れて熱中するのでありました。
 或る晩、デンパサール市街のレストランへと連れて行かれた時でありますが、歓迎の意味でと髪に花飾りを刺され、白い一輪花の髪飾りなんぞは扶桑では男児の為すべき装飾にあらずと面喰い、なんとなく照れながらテーブルへと案内されるのでありましたが、そこでインドネシア風焼き飯のナシ・ゴレンやらサテーと云う焼き鳥等を食して、その後にコーヒーが出てきたのでありました。店のボーイさんが云うには、これはバリ島独特のコーヒーであるから、もし口に合わなければ普通のコーヒーと取り換えてあげるとのこと。成程そのコーヒーはガラスのカップに入れてあって、確かに普段拙生が扶桑の喫茶店で飲むコーヒーとはその器からして趣が違っているのでありました。
 それにその味は、見事と云う程に甘かったのでありました。普段拙生は砂糖もミルクも混ぜないコーヒーを飲んでいるものでありますから、先ずその甘さに閉口するのでありました。しかも砂糖だけで作られているのではなさそうな独特の甘みなのであります。加えてガラスの器の底にコーヒー粉と思しき沈殿物が堆積していて、実に以って飲み難そうであります。“初もの”嫌いの拙生としてはこれを腹に納めるのに躊躇いを禁じ得ないのでありました。しかしボーイさんがとても親切な人だったので、取り換えを要求する勇気がなくて、無理してそれを飲み干したのでありました。
 ホテルへ帰るとコーヒーショップへ直行して飲み慣れた普通のコーヒーを注文し、拙生はその甘みの残滓を口の中から取り除こうとするのでありました。バリ島滞在中はあのガラスの器に入ったコーヒーだけは金輪際飲むまいと、口元に差し上げた陶器のコーヒーカップから立ち上る湯気にそう固く誓う拙生でありました。
 しかし味覚の好悪は移ろう秋の空のごとくであります。元々好き嫌いなどと云うものは、ほんの些細な切っかけで簡単にひっくりがえる程度のものなのかも知れません。
(続)
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