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バリ島とコーヒーⅠ [散歩、旅行など 雑文]

 拙生が最初に行った海外旅行がバリ島でありました。もう四半世紀前のことであります。本当は、インドネシアを旅行するなら先ず、プラムディヤ・アナンタ・トゥール氏の小説に魅せられていた頃でありましたから、ジャカルタや近辺のインドネシア独立戦争の史跡などを見てみたかったのでありましたが、この旅行の性格上バリ島観光になったのでありました。
 まあ、ツアーでありましたからパスポートの入手くらいしか、さして手間暇もかからなかったのでありますが、しかし大体がものぐさで面倒臭いことが苦手な質でありますし、小心者であるため万事に“初もの”をあんまり歓迎しない人間としては、生涯初の海外旅行と云うことで少なからず緊張感はあったのでありました。その緊張感の実態てえものは、例えば言葉も通じない所で迷子になったり俄かに差しこみに襲われたり、有無を云わさずわけも判らず突然当局に連行されたりしたらどうしようかとか云った類の、云ってみれば埒もない取り越し苦労であります。
 さて、万事に戸惑いながら成田空港からガルーダ・インドネシア航空の機上の人となり、機内食に舌鼓を打ったり暫しまどろんだり、赤道を越えた記念のシールを貰ったりしながら、夕暮れのヌグラー・ライ空港へ八時間弱の時間を要して到着したのであります。地へ足を下ろすとそこは熱帯植物の濃密な匂いに囲まれた南海の楽園でありました。
 手荷物検査を終えるといきなり大柄のお兄さんが笑いながら近づいてきて、親切にも我が手荷物を押してロビーへと案内してくれます。申しわけ御座らん等と日本語で一声。しかしお兄さんは拙生の荷物に手を添えたまま立ち去る気配を見せません。口元を見ているとどうやら「チップ」と云っている様子。前もって読んでいた旅行案内書で、この国ではチップの習慣はないと云う情報を得ていたものでありますから、貴国に於いてチップは不要では御座らんのかと、これまた早口の日本語で問うのでありましたがこれは野暮と云うものでありましょう。ま、仕様がないと急ぎ両替所で一ドル紙幣を両替して半分程渡すと、お兄さんはニコニコしながら拙生に手を挙げるのでありました。
 チップなんぞと云うものは、なんとなく日本人の感覚からすれば不愉快な習慣であると、渋い顔をして突立っていると、現地旅行会社の案内の人が日本語で話しかけてくるのでありました。彼はツアーの名称と拙生の名前を確認して、迎えに来た旨告げ、拙生を旅行会社差し回しの車へと誘うのでありました。
 空港からサヌール・ビーチまでその車で送ってくれるのでありましたが、途中バリ・ビーチ・インターコンチネンタルホテルで、戦時中にバリに居たことがあると云う三人連れのお爺さん観光客を降ろして、拙生ともう一人の連れをその先のバリ・ハイアットホテルまで運んでくれるのであります。ツアー・ガイドの男性はバリ・ビーチ・インターコンチネンタルホテルは日本人観光客が多くて騒がしいが、これから向うハイアットホテルは欧米人の宿泊者が殆どで静かだから、お主らは良いホテルを選んだと云う話をするのでありましたが、してみるとどうやら日本人は騒がしいと現地で評判であるらしく、それを拙生等日本人に語る彼の心胆てえものはいったい那辺に在りや、等とぼんやり考えていたら間もなくハイアットホテルへと車は滑りこむのでありました。
(続)
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