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枯葉の髪飾りLⅩⅩⅤ [枯葉の髪飾り 3 創作]

「そもそもクリスマスにケーキば食うとは、世界的な仕来たりやろうか?」
 隅田が続けて疑問を呈します。
「いや、日本だけじゃなかやろうか。そがんことば何処かで聞いたことのある気のする」
 吉岡佳世のお兄さんが云うのでありました。「日本の場合は誕生日と同じ扱いになっとるなあ、クリスマスもなんとなく。滅多に食えんケーキば食うための、口実に使われとるとやろうか、クリスマスも誕生日も。そいけんケーキば食うて云う本当の目的ために、蝋燭に火ばつけて消すて云う儀式ば、どっちもなんとなくするとやろうかね、日本では」
「そがんことどうでもよかたい」
 吉岡佳世のお母さんは云うのでありました。
「そうそう。早う火ば消さんば、蝋のケーキに垂れてくるよ」
 島田が消火を促します。
「そんなら取りあえず、佳世が火ば消せ」
 お兄さんが吉岡佳世に命じるのでありました。
「あたしが消していいと?」
「ま、吉岡の激励会と云う意味もあるけんね、今日のパーティーは」
 隅田が云います。
「そんなら佳世、あんたが消しなさい」
 吉岡佳世のお母さんが彼女に消火人の承諾を与えるのでありました。
「判った」
 吉岡佳世はそう云って、息を大きく吸い込むと身を乗り出してふうとその息を蝋燭の火に吹きかけるのでありました。しかし彼女の肺活量では全部の蝋燭の火を一度に消すことが出来ないのでありました。都合三回の吉岡佳世の深呼吸の末に七本の蝋燭の火は総て消え、部屋が暗闇の中に沈むのでありました。最初に拍手の手を鳴らしたのは多分島田でありましょう。それに釣られて全員がパラパラと不揃いな拍手の合奏を行います。それからクラッカーの爆裂音のカノンが鳴り響き、吉岡佳世が立ち上がって部屋の蛍光灯をつけると、吹き消された蝋燭から煙が蛍光灯へ向ってなよやかに立ち登っているのでありました。
「さて、そんならさっそく食べようかね」
 吉岡佳世のお母さんはそう云うと立って台所へ行って包丁を持って来るのでありました。
「あたしお腹いっぱいけん、少しでいいよ」
 吉岡佳世が量について希望を申告します。
「はいはい、佳世はちょっとね。他の人は別に大丈夫やろう?」
 彼女のお母さんはケーキを先ず少量吉岡佳世の割り前を切ってそれを小皿に移すと、残りを目見当で均等に切り分けて六人分の小皿に夫々移し、銘々の前にある小城羊羹の小皿の横に置くのでありました。
「羊羹とケーキて云うとも妙な取り合わせぞ、こがんして眺めるぎんた」
 安田が自分の前に置かれた二つの小皿を見下ろしながら云うのでありました。「自分で買うてきて、こう云うともなんばってんが」
(続)
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