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枯葉の髪飾りLⅩⅡ [枯葉の髪飾り 3 創作]

「今日は学校で配られたプリントとか、伝達事項とかはなかです」
 拙生が彼女のお母さんに云います。
「いつも済まんねえ、色々届けものとかして貰うて」
「いやあ、別に届けもののなか時でも、こがんしてお邪魔させてもろうとるけん、オイいや僕の方が迷惑じゃなかて思いよるとばってんが」
 吉岡佳世がクスッと笑うのでありました。それが何に対しての笑いなのか判然としないものだから、拙生は彼女の顔を真顔のまま見るのでありました。
「井渕君は、あたしのお母さんに対していつも、オイ、て云うた後にすぐ、僕、て云い直すよねえ、前から思うとったけどさ」
 吉岡佳世が九十九島せんぺいを一つ手に取りながら云うのでありました。
「そりゃあ、目上の人に対して、オイ、て云うとも失礼かて思うけんがくさ」
「そんなら初めから、僕、て云えばよかとに。態々いつも云い直すから、なんとなく可笑しか」
「癖になっとるけんがね。そいけん、つい出てしまうっちゃん」
「別に、オイでもよかよ」
 彼女のお母さんが云います。
「いや、そうはいかんです。佳世さんには笑われるばってん」
「律儀かねえ。井渕君は二人の時は佳世のことはなんて呼びよると。佳世さん、ね?」
 彼女のお母さんが興味津々といった面持ちで拙生に聞くのでありました。
「吉岡、て呼ぶよね何時も」
 吉岡佳世が云うのでありました。
「下の名前で呼んだりせんと?」
「いやあ、そがん呼び方はせんです」
「佳世は井渕君のことばどがん呼ぶと?」
 彼女のお母さんは吉岡佳世の方に顔を向けて聞きます。
「井渕君て呼ぶ」
「なんか愛想のなかねえ、二人共」
「ずうっとそがん呼んできたから、今更別の呼び方するのは照れ臭いもん」
 吉岡佳世はそう云いながら、拙生に同意を求めるような目を向けるのでありました。拙生がその目に向かって何度か頷いて見せるのは、彼女のお母さんに同じ心境であることを伝えるための仕草であります。
「井渕君は家ではなんて呼ばれよると?」
「秀二て呼ばれます」
「愛称はなかと、秀ちゃんとか?」
「他の親類とかはそがん云い方ばするけど、親は呼び捨てします」
「佳世も家では、佳世、て呼び捨てか、そがん云えば」
 彼女のお母さんが云うのでありました。
(続)
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