枯葉の髪飾りL [枯葉の髪飾り 2 創作]
仰向けに倒れた大和田に追い打ちをかけるように、彼が肩に下げていたバッグがその顔を覆った両手の上にどさりと落ちるのでありました。両手はそのままに、大和田は横向きに体を転がして蹲るように両足を縮めます。
突然の出来事に隅田が身動き出来ない様子で、顔を引き攣らせて拙生を見ています。拙生はその隅田の顔を睨むのでありましたが、しかし隅田に対しては何の害意も持ちあわせてはいないのでありました。
ふいに拙生は後ろから乱暴に羽交い絞めにされます。それは後方の異変に気づいて安田が飛んで来て拙生をそうしたのでありました。
「やめろ、井渕!」
安田が拙生の耳元で叫びます。「どうしたとか、急に?」
その安田の声に隅田が動転した気を立て直したようで、倒れている大和田を助け起こそうとします。大和田はすぐには起きることが出来ない様子でありました。しかし隅田がなんとか立ち上がらせて、数言興奮した声で話しかけると、大和田は片手は口元を覆ったままもう片方の手でバッグを拾いあげ、怯えたような横目で拙生を見るのでありました。夜目にも判る、口元を覆う手の指の間から滴る血は恐らく口からの血ではなくて鼻血だろうと、そんなどっちでも構わないようなことを拙生は混乱した頭で考えるのでありました。大和田は倒れる時足を痛めたのか、片方の足を引き摺るように動かしながら、隅田の指示で我々から逃げるようにバス停の方へ向って去るのでありました。
「どがんしたとか、井渕?」
隅田が落ち着きを取り戻した声で安田と同じことを云うのでありました。
「欠陥品、て聞こえたけんがね」
拙生もやや冷静になっていてそう説明するのでありました。
「ああ、そうか」
隅田が拙生の気持ちを察するように何度か頷きます。「大和田はああ云うヤツけんが、別に悪意で云うたとじゃなかやろう。ただ無神経で口の利き方ば知らんだけぞ」
「悪意か無神経かは、お前にも判らんやろうもん。それに実際どっちでもよか、それは。どっちにしてもあの言葉は許せん」
「まあ、そうかも知れんばってん・・・」
「安田、もうその手ば離せ。何もせんから」
拙生はまだ拙生を羽交い絞めにしている安田に云うのでありました。安田が恐る恐るその手の力を緩めるのでありました。
吉岡佳世が欠陥品のわけがないと拙生は疼く中指を見ながら思うのでありました。吉岡佳世を侮蔑するいかなる言葉も拙生は許しませんし、吉岡佳世はむしろ拙生にとっては完璧な人間以外ではないのだと、拙生は頭の中で何度も繰り返すのでありました。しかしそう何度も繰り返さなければならないと云うことが、実は拙生の中にも彼女のことを、認めたくはないのですが、恰も不備な存在と思いなす機微が潜んでいたのかも知れません。だから大和田の言葉にあんなに過敏に反応してしまったのでありましょう。
(続)
突然の出来事に隅田が身動き出来ない様子で、顔を引き攣らせて拙生を見ています。拙生はその隅田の顔を睨むのでありましたが、しかし隅田に対しては何の害意も持ちあわせてはいないのでありました。
ふいに拙生は後ろから乱暴に羽交い絞めにされます。それは後方の異変に気づいて安田が飛んで来て拙生をそうしたのでありました。
「やめろ、井渕!」
安田が拙生の耳元で叫びます。「どうしたとか、急に?」
その安田の声に隅田が動転した気を立て直したようで、倒れている大和田を助け起こそうとします。大和田はすぐには起きることが出来ない様子でありました。しかし隅田がなんとか立ち上がらせて、数言興奮した声で話しかけると、大和田は片手は口元を覆ったままもう片方の手でバッグを拾いあげ、怯えたような横目で拙生を見るのでありました。夜目にも判る、口元を覆う手の指の間から滴る血は恐らく口からの血ではなくて鼻血だろうと、そんなどっちでも構わないようなことを拙生は混乱した頭で考えるのでありました。大和田は倒れる時足を痛めたのか、片方の足を引き摺るように動かしながら、隅田の指示で我々から逃げるようにバス停の方へ向って去るのでありました。
「どがんしたとか、井渕?」
隅田が落ち着きを取り戻した声で安田と同じことを云うのでありました。
「欠陥品、て聞こえたけんがね」
拙生もやや冷静になっていてそう説明するのでありました。
「ああ、そうか」
隅田が拙生の気持ちを察するように何度か頷きます。「大和田はああ云うヤツけんが、別に悪意で云うたとじゃなかやろう。ただ無神経で口の利き方ば知らんだけぞ」
「悪意か無神経かは、お前にも判らんやろうもん。それに実際どっちでもよか、それは。どっちにしてもあの言葉は許せん」
「まあ、そうかも知れんばってん・・・」
「安田、もうその手ば離せ。何もせんから」
拙生はまだ拙生を羽交い絞めにしている安田に云うのでありました。安田が恐る恐るその手の力を緩めるのでありました。
吉岡佳世が欠陥品のわけがないと拙生は疼く中指を見ながら思うのでありました。吉岡佳世を侮蔑するいかなる言葉も拙生は許しませんし、吉岡佳世はむしろ拙生にとっては完璧な人間以外ではないのだと、拙生は頭の中で何度も繰り返すのでありました。しかしそう何度も繰り返さなければならないと云うことが、実は拙生の中にも彼女のことを、認めたくはないのですが、恰も不備な存在と思いなす機微が潜んでいたのかも知れません。だから大和田の言葉にあんなに過敏に反応してしまったのでありましょう。
(続)
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