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枯葉の髪飾りⅩLⅧ [枯葉の髪飾り 2 創作]

 坂下先生は皆で吉岡佳世の家に押しかけようと云う我々を窘めるのでありました。
「ああ、それもそうやね」
 安田が納得します。
「そう云えば安田、お前も入試は世界史で受けるとやったね」
 坂下先生が思い出したように安田に云います。「井渕にも云うたとやけど、お前も井渕と一緒に明後日までに殷からずうっと中国の歴代王朝名と成立年、それに王朝ば開いた最初の人間の名前ば全部覚えてこい」
「わちゃあ、なんでオイまでそがんとば覚えてこんばならんとですか。井渕は罰けん仕方なかかも知れんばってんが」
「ま、ことの序でくさ」
 坂下先生はそう云って笑うのでありました。
「オイはなあんも関係なかとに。酷かばい、それは」
「つくづく、間の悪か人間ばいね、安田は」
 安田が口を尖らすのを島田が大笑しながらからかうのでありました。
「隅田とか大和田とか、この馬鹿ちんの島田には、なんか宿題は出さんとですか。オイだけて云うとは不公平じゃなかですか」
「オイも大和田も受験は日本史やん」
 隅田が云います。
「あたしは社会科は地理けん」
 島田が云います。
「とんだとばっちりば被ることも、偶にはあるくさ、長い人生には。そう云う理不尽さに対して、耐性とか受け止める器量ば創るとも勉強の内ぞ」
 坂下先生が安田をからかう、いや諭すのでありました。
 と云うわけで吉岡佳世の家には荷物を届ける拙生と、同じ女子の誼で島田が立ち寄ることとして、他の三人は後日見舞いに行くと云うことになったのでありました。島田はすでにブルマーの上にジャージのズボンを穿いているので、そのまま自分のバッグを肩に掛けると拙生等と一緒に教室を出るのでありました。
「そいじゃあ井渕と島田、宜しく頼むな。他の者は今日は遠慮しとけよ」
 別れ際に坂下先生から靴脱ぎ場の辺りでそう念を押されて我々は校舎を後にし、ロックバンドの演奏が佳境を迎えている気配の運動場を尻目に、五人打ち揃って校門を出るのでありました。島田はその演奏の音量に多少後ろ髪を引かれるようで、其方に我々よりも少し長く目を向けながら歩くのでありました。
「おい島田、田代の演奏ばしっかり最後まで堪能出来んで、残念やったねえ」
 安田はそんなことを云って口元に薄ら笑いを浮かべながら島田を揶揄します。
「やぐらし! 田代君の演奏よりクラスメートの佳世のことの方が大事に決まっとるやろう。安田の馬鹿ちんじゃあるまいし、あたしはそんぐらいのことはちゃんと弁えとると。なんばつまらんいちゃもんばつけるとかね、このぼんくら兄さんは」
(続)
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