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枯葉の髪飾りⅩⅩⅦ [枯葉の髪飾り 1 創作]

「もう、お母さん!」
 吉岡佳世は彼女のお母さんを睨んで唇に人差し指を縦にあてがうのでありました。
「井渕君、美味しかったねこの子のお弁当?」
「はい、美味しかったです」
「そりゃ本人ば前にして不味かったとは云えんやろうさ」
 彼女のお兄さんが横から云います。
「いや、本当に美味しかったですよ。いつも学校に持っていっとる、ウチの母親の弁当なんかより遥かに美味しかったです」
「体がこがんやけん、中学校の頃から甘やかしてばっかりで、女の子らしか躾はなあんもせんやったから、卵も焼ききらんて思うとったけど。後でお腹の痛うならんやったね?」
 彼女のお母さんが真顔で拙生に聞きます。
「いや、大丈夫やったです」
「あたしもその気になれば、料理なんかちょいちょいて出来るとよ、本当は」
 吉岡佳世が云います。
「よう云うねあんたは。あの朝あたしも大分手伝わされたような気のするばってん」
 吉岡佳世が慌てて、またもや唇に人差し指をあてて彼女のお母さんを睨みます。
「ああもう、お母さん、あんまり余計なことばっかり云わんでよ」
「お前井渕君に、あたしは料理が得意とかなんとか云うとるとやなかとか、ひょっとして?」
 彼女のお兄さんがからかうような口調で吉岡佳世に云います。
「別にそがんことは云うたりしとらんもん、あたしは」
 彼女は両頬を膨らましてお兄さんを睨むのでありました。
「いや、何時やったか聞いたことのある気がするぞ、そがん風なことば」
 拙生が云います。
「あれ、そうだったっけ?」
 吉岡佳世は今度は拙生の顔を見るのでありましたが、少々狼狽した気持ちの内を隠そうとするためか目がくるくると微妙に動くのでありました。
「ほれ、いいところば見せようとして、よう云うなあ、お前も」
 彼女のお兄さんが彼女を指さしながら云うのでありました。
「でも本当にあたし、料理するのは好きやし、結構なんでも作れるとよ。普段はせんように見えるかも知れんけど。あのお弁当も重要なところは、全部あたしが作ったとやから。お母さん、そうよねえ」
「そうそう、そがんことにしとこうか今日は」
「もう、お母さん!」
 吉岡佳世は頬を一層膨らませて彼女のお母さんの肩を左手で叩くのでありました。「でも、本当に美味しかったやろう、あのお弁当?」
 吉岡佳世は拙生の顔を覗きこむようにして聞くのであります。まさか不味かったとは拙生は云えないのであります。ま、実際不味くはなかったのですし。
(続)
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