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枯葉の髪飾りⅩⅩⅥ [枯葉の髪飾り 1 創作]

「もう知っとらすでしょうけど、佳世さんと海に一緒に行ったとですが、その後体の調子の崩れんかて思うて、ちょっとオイ、いや僕は心配やったとです」
 拙生が云います。
「いやあ、むしろ元気になったとよこの子は」
 彼女のお母さんがそう返します。「あたしもちょっと心配したとけど」
「済んません。オイ、いや僕が無理に誘ったけんが、心配ばかけてしもうて」
 拙生は頭を下げるのでありました。
「いやいや、現に前よりも元気になったごたるけん、むしろ井渕君に感謝しとるとよ」
「ところで、なんで冬休みに手術になったとですか? 学校のことば考えたら夏休みの方が都合の良かとやなかかねと思うたとですけど」
 拙生は前から思っていた疑問を披露します。
「それはそうやけど、福岡から心臓病の偉い先生の来て、この子の手術ばしてくださることになっとって、その先生の都合で冬になったと」
「ああ、そうですか」
「福岡に行って手術してもよかて云われたとやけど、ひょっとして入院の長引いたりしたら困るし、向こうで手術するてしても夏は無理かもしれんらしくてね。その先生はえらい忙しか人らしかし。そんならて云うことでこっちで冬にてなったと」
「夏に手術してたら、井渕君と海に行けんかったじゃない」
 吉岡佳世が云います。
「それはそうやけでどさ」
「ま、夏に手術せんで、井渕君と海に行って、こいつは前より元気になったとけんが、結果、冬に予定しておいてよかったと云うことになるかな」
 彼女のお兄さんが云います。
「そう。海に行けたとやし、もの凄く楽しかったし」
 吉岡佳世は云いながら拙生を見て何度か頷くのでありました。
「それもそうか、結果としては」
「そうそう。井渕君も楽しかったやろう?」
「うん、楽しかった」
「まったく、羨ましかねえお前等は」
 彼女のお兄さんがそう云って自分の前の海老フライの載った皿を箸で叩くのでありました。彼女のお母さんはそれを見て口に掌を当てて笑い出します。
「あの、海に行った日はね」
 彼女のお母さんが笑いを収めた後、まだ笑いの余波を口元に残したまま云います。「いつもはこの子、起こされてもなかなか起きて来んくせに、朝早くから台所でごそごそしとるとさ。なんばしとるとかて思うて見に行ったら、普段はしたこともない料理ばいそいそとしよらすと。この子が自分で進んで料理しとるところば今まで見たことのなかったけん、なに事やろうかて思うて、あたしびっくりしたと。暑さで気がふれたかて思うたぐらいよ」
(続)
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