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枯葉の髪飾りⅩ [枯葉の髪飾り 1 創作]

 海に誘ったのを断られて拙生は少しばかり意気消沈するのでありました。蝉の鳴き声が一層繁く聞こえはじめてきて、拙生はその声に妙に苛立つのであります。
「でもあたし、泳がなければ、別に海に行くくらいなら、いいか」
 吉岡佳世が云います。「そうね、せっかくの夏休みやから、海、行こうか」
「体は、大丈夫とか?」
「うん。泳がんなら、この公園に居ても海に居ても何処に居ても同じやろうから」
「海は日差しの強かぞ」
 海に誘った拙生の方が今度は彼女の同意に少し怖気づくのでありました。
「大丈夫やろう。あたしも此処んところ気の塞ぐことの多かったから、ちょっと気晴らしもしたいもん」
「海は日差しの強うして、居るだけで消耗するとやなかろうか」
「なん、それ?」
 彼女はそう云って眉根を寄せて頬を脹らませてみせます。「自分から誘ったくせに」
「それはそうやけど、なんとなく落ち着いて考えたら、お前にはキツかかねて思うてさ」
「大丈夫!」
 吉岡佳世はそう断言して大きく一つ頷くのでありました。
「そんなら、明々後日の日曜日、そうね、ここで待ち合わせて云うことでよかかね?」
「了解。なんか楽しみになってきた」
 拙生とて非常に楽しみであるのは云うまでもないことであります。
「あたしお弁当作ってこようか」
「ほう、それは助かるばい」
「こう見えても料理は結構得意とよ、あたし」
「ふうん。楽しみにしてよかやろうか」
「うん、期待して」
 吉岡佳世は笑い顔で小さく何度か頷くのでありました。
「どうせなら島に渡ってもよかとけど、あんまい遠出しても時間の勿体なかけん、白浜海水浴場辺りでよかかね?」
白浜海水浴場は定期便の乗合船が往復していて、結構気軽に行くことの出来る処でありました。しかもそこそこ広くて海の水もきれいであります。
「うん。白浜でいいよ」
「よし、決まり。そんなら鹿子前から船に乗らんばけん、ここに九時に集合て云うことにするか。それでよかや?」
「うん、判った」
 彼女の体に夏の海の強い日差しは本当に障らないのでありましょうか。彼女は大丈夫と云ってはいるものの、その辺りが拙生には少しばかり心配なことではありました。しかしだからと云って、二人で海に遊びに行くチャンスを逃すつもりは毛頭ありませんでしたが。
(続)
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