SSブログ

枯葉の髪飾りⅣ [枯葉の髪飾り 1 創作]

「小さい頃は別になんともなかったの」
 彼女は続けます。「中学生になってから見つかったのよ。肺で酸素を貰った血液が心臓へ戻ってきてその後全身へ回るんやけど、心臓の部屋の間の壁に穴が開いて、その新鮮な血液が古い血液の部屋に逆流して、全身へ回る量が少なくなるの。それにいろんなところに負担がかかって、放っておくと肺が変になるとか云う感じの病気」
「なんかよう解らんばってん、大変そうな病気ねえ」
 拙生は今彼女が説明したことはうまく理解出来なかったものの、篤疾であることはなんとなく理解してそう云うのでありました。
「ぼちぼち手術することになると思う」
「ふうん、手術か。なかなかキツか病気ばいねえ」
 拙生の云い様が可笑しかったのか彼女は口に手を当て、肩を竦めてくすっと笑うのでありました。
「井渕君(これは仮ではありますが拙生の姓と云うことにします)は何の病気?」
 彼女が聞き返します。
「オイか? オイのは病名は知らん。なんか不整脈の続いとってなかなか治らんけん、病院へ来いて医者に云われて通っとると」
「運動とかは大丈夫と?」
「ま、大丈夫のごたる。医者もあんまい激しかとはいかんけど、適当なら別に止めんて云いよらす」
「ふうん。あたしは運動はだめ」
「そう云えば体育の時間はいつも見学しとったもんなあ、お前」
 公園の中にやや強い風が舞いこんできて、傍らの銀杏の木の葉擦れのさざめきが拙生と彼女の頭の上に降ってくるのでありました。
「心臓にも肺にも負担の掛かり過ぎるけんだめとて」
 彼女の身長は低い方ではないのですが、その体躯は細くて華奢で、物腰と云うのもいかにも柔弱な風情でありました。しかし顔立ちが大人しそうであるのにどことなく華やかで、人懐っこく笑っている表情などはとても心臓に「キツい」病気を抱えているとは思えないのであります。
「お前、どのくらいの割合で病院に通っとるとか?」
「週に2回、月曜と木曜。でも来週から週に一回でよかごとなったの」
「じゃあ、良うなっとるてわけか。オイは週一回、木曜日」
「同じ木曜日の診療日で、今日ここで逢うたわけね」
 彼女はそう云って、納得するように何度か頷くのでありました。
「お前、ようこの公園には来るとか、病院の帰りとかに?」
「ううん。そんなこともないけど、今日はなんとなくちょっと寄り道したと。そしたらどこかで見た顔がこのベンチでぐうぐう寝とらしたとさ」
(続)
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

枯葉の髪飾りⅢ枯葉の髪飾りⅤ ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。